福島章恭 合唱指揮とレコード蒐集に生きるⅢ

合唱指揮者、音楽評論家である福島章恭が、レコード、CD、オーディオ、合唱指揮活動から世間話まで、気ままに綴ります。

エリーザベト・クールマン メゾ・ソプラノ・リサイタル 東京春祭 歌曲シリーズ16

2015-04-12 01:12:06 | コンサート



エリーザベト・クールマン メゾ・ソプラノ・リサイタル。

ヤノフスキ指揮の「ワルキューレ」公演の素晴らしいフリッカを聴いて、矢も楯もたまらず東京文化会館小ホールへと駆けつけた。座席は、舞台やや上手寄りの前から3列目。大ホールを征服するクールマンの歌唱を小ホールという空間のこんなにも間近で享受できるという至福、何という贅沢だろうか。

歌とは何か、声とは何か、歌手とは何かを教えてくれる素晴らしいステージだった。

前半はリストとワーグナー、そしてグルック(下記参照)。

リストも良いのだけれど、やはり自分の大好きなワーグナー「ヴェーゼンドンク歌曲集」からの3曲には恍惚となった。声そのものも美しいのは勿論、豊かな低声からピアニシモの高声まで、表現の振幅の大きさは驚異的である。しかし、聴く者に「声」でなく、音楽を感じさせるというのが本物の芸術家の証だ。

さらには「ワルキューレ」で、あの怖い怖い背筋の凍るようなフリッカを歌った同じ歌手が、知恵に溢れ、堂々たる威厳をもったエルザを歌うという凄み!

休憩後は、まずシューマン「女の愛と生涯」を軸に展開。
これが、ひとつの芝居のように、或いは映画のように、実に巧みに構成されていて、大きな説得力を持つものだった。
「女の愛と生涯」から歌われたのは、全8曲のうち、第1、3、6,7,8曲の5曲。出会いのときめきを歌った第1曲につづいてリスト「われ汝を愛す」が置かれることで、恋の想いにより一層の高鳴りを覚えたり、シューマン「子供の情景」から「満足」(ピアノ・ソロ)が間奏曲のように二人の愛の進展を思わせ、 さらに、永訣の前にシューベルト「子守歌」歌われることが、まるで死者の魂を慰めるようでもあり、或いは、二人の間に子供が誕生したようにも思われたりと、奥行きの深いものとなっていた。

そして、シューベルトの4曲での盤石の締めくくり。

アンコールは以下の3曲。これも溜息が出るほど聴かせた。

リスト「3人のジプシー」
「さくらさくら」(日本語歌唱 三ツ石潤司・編曲)
リスト「愛とはいかに?」

ピアノのクトロヴァッツは、ムーアやヴェルバのような端正なスタイルではない。やや饒舌で、崩しすぎのようにわたしには思えた。もう少し表現を抑え、楽曲の骨組みを明らかにしてくれた方が、シューマンやシューベルトがより生きたろうと思われる。しかし、全体に、これだけの感動はなかなかあるものではない。歌曲を聴いた、というより、オペラの一場面を聴くようでもあり、いくつもの人生を聴くようなリサイタルであった。

なお、リハーサル後の判断で、予定になかった20分の休憩の置かれたのは正解だった。この中身の濃さ・・・。そうでなければ、聴衆の集中がつづかなかっただろう。

東京・春・音楽祭 歌曲シリーズ16

■日時・会場
4.11 [土] 19:00開演(18:30開場)
東京文化会館 小ホール

■出演
メゾ・ソプラノ:エリーザベト・クールマン
ピアノ:エドゥアルド・クトロヴァッツ

■曲目

リスト:
 私の歌は毒されている S289 
 昔、テューレに王がいた S278

ワーグナー:
 《ヴェーゼンドンク歌曲集》 より
  温室にて
  悩み
  夢
 エルダの警告~逃れよ、ヴォータン(舞台祝祭劇《ラインの黄金》 より)

リスト:
 私は死んだ (《愛の夢》第2番 S541-2 ) (ピアノ・ソロ)

グルック:
 ああ、われエウリディーチェを失えり
 (歌劇《オルフェウスとエウリディーチェ》 より)

 ♪休憩

リスト:
 愛し合うことは素晴らしいことだろう S314

シューマン:
 彼に会ってから (《女の愛と生涯》 op.42 より)

リスト:
 われ汝を愛す S315

シューマン:
 私にはわからない、信じられない (《女の愛と生涯》 op.42 より)
 満足 (《子供の情景》 op.15 より)(ピアノ・ソロ)
 やさしい友よ、あなたは見つめる (《女の愛と生涯》 op.42 より)
 私の心に、私の胸に (《女の愛と生涯》 op.42 より)

シューベルト:
 子守歌 D.498

シューマン:
 あなたは初めての悲しみを私に与えた (《女の愛と生涯》 op.42 より)

シューベルト:
 夜の曲 D.672
 死と乙女 D.531
 精霊の踊り D.116
 小人 D.771


四年目

2015-04-09 16:18:17 | 日記


本日は年に一度の逆浸透膜浄水器のメンテナンスの日。2011年4月の設置なので、今回で4度目、即ちあれから4年経ったことになります。

メンテナンス前にTDSメーターにて水質検査をしたところ、通常の蛇口からの水道水が95ppm。逆浸透膜浄水器を経た水が5ppmと1年間、素晴らしい性能を維持していてくれたことが分かります。

水が綺麗になるのは有り難いのですが、唯一の難点は1リットルのRO水をつくるのに約5リットルの水道水が必要ということでしょうか。ここまで高性能な浄水器など不要な世の中の方がよいに決まっていますね。

本日はフィルターとともに消耗品であるチューブ一式を交換して頂きました。台湾製から耐久性の高いイギリス製への交換で、約10年は大丈夫とのこと。

来年、通算5度目のメンテナンスの頃には、もうライプツィヒのトーマス教会に於ける「マタイ受難曲」の本番指揮は終わっているのだ、と思うと気が引き締まります。


大野和士&都響 音楽監督就任記念公演 マーラー「7番」

2015-04-09 01:22:52 | コーラス、オーケストラ

都響の年間定期会員になったのは、昨年聴いた大野和士&フランス・リヨン歌劇場管とのラヴェル「ダフニスとクロエ」全曲版に感銘を受けたからである。あの演奏会で、大野和士に、日本人離れしたヨーロッパ的な香りを感じたからだ。
大野和士なら何かやってくれるだろう。というわけで、「大野和士 都響就任記念公演2」と銘打たれたマーラー「第7」には期待するところ大であった。

しかし、見事に裏切られた。
大野和士は、そのプレトークで各楽章のキャラクターを「夜」というキーワードを用いて解説してみせたが、そこで語られた「夜」の怖さ、隠微さ、魅惑などは、実際の音となっていなかったように思える。

とにかく、演奏に色がない。特に気になったのはヴァイオリン群で、油絵的に濃密な音や歌が求められているというのに水彩画のように淡い。しかも、絵の具の色が2つか3つしかなく、味気なくて単調なのだ。歌に乏しいのは致命的で、キュッヒル率いるN響による本物の響きを聴いたばかりなことも手伝って、単調さが余計に気になるのだろう。

さらに、金管でいえば、トロンボーン、テューバにも腸に響く重量感がないし、フィナーレに於ける、トランペットのファンファーレも効果的でない。

久しぶりに「あああ、日本のオーケストラを聴いちゃったなあ」というのが正直な感想。ヤノフスキ&キュッヒルのN響やノット&東響を聴いて忘れていた感覚が、蘇ってきてしまった。都響のイメージが10年以上後退したような印象だ。

大野は、明快に分かりやすく曲を組み上げていたと思うけれど、「夜」というよりは、「昼」の音楽。何事も白日の下に晒されてしまって、解説であれだけ語っていた「夜」の秘密に迫ることは一切なかった。

さて、来る12日、大野&都響によるベルリオーズ「レクイエム」はどうなるだろう? 演奏機会が少ない作品なので、チケットを買ってしまったのだが、今宵のマーラーを聴くかぎり、自分の好みにはなりそうにない。やはり、カンブルラン&読響のブルックナー「7番」を選ぶべきだったか・・・。


サザンオールスターズ「葡萄」届く

2015-04-08 10:05:17 | レコード、オーディオ

サザンオールスターズのニューアルバム「葡萄」2LP。今朝、届きました!

ボクにとっては、過去の名盤の復刻でなく、いま誕生したばかりのアルバムをアナログ盤で聴くことの出来ることが重要なのです。学生時代には普通だった営みのつづいていることが。



サザンオールスターズ、ならびに桑田佳祐がアナログ・バージョンを出し続けてくれていることは、ホントに有り難い。

ジャケットは、やっぱりこのサイズでなくちゃ!


ヤノフスキ祭り 最終日 東京春祭「ワルキューレ」2日目

2015-04-08 01:42:44 | コンサート

我がヤノフスキ祭りの最終日。
およそ3週間という短い間に同じ指揮者のコンサートを6回も聴くというのは、わたしとしても珍しいことだ。
さて、「ワルキューレ」2日目。初日に受けた感動を深めたり確認する場面もあれば、新たに気付かされることもあった。初日のような「無条件降伏」ということにはならなかったものの満足度は最上級である。

再確認できたのはヤノフスキのオペラ指揮者としての手腕である。歌手の声量に配慮しつつ、オーケストラに最善のバランスをもたらす力量には敬服するほかない。
歌手に配慮することで、オーケストラの音量が抑えられたり、スケール感が小さくなったりというマイナス面はあるにはあるのだが、そこに現出するサウンドには一種の慎みを伴った奥深さがあり、その音楽的魅力は絶大である。
その結果、第2幕の長丁場が実に意味深く、面白くなる。冗長になりがちなヴォータンの独白に一切の間延びはないし、フリッカとヴォータンの遣り取りもスリリングの極み。
さらには、ブリュンヒルデがジークムントに死を予告する場面での彼岸を思わせる霊的な空気感など実に美しかった。

いま、フリッカとヴォータンが良かったと書いたが、歌手陣でもっとも図抜けていたのがフリッカを歌うエリーザベト・クールマンである。
いやはや、これほどまでに怖い怖い怖い怖いフリッカもそうそうなく、首筋に寒さを覚えた同士も多いのではなかろうか?
残る歌手にはそれぞれ注文はあるけれども、実演でこれだけ聴かせてくれたのだから、満足せねば罰があたるだろう。

唯一、この名演に水を差したのは、第3幕のワルキューレたち。崇高な舞台に突如異物が闖入したような違和感は拭えない。
名指しこそ避けるが、一部に発声とピッチに難のある歌い手がおり、全体にもアンサンブルになっていない。ハモった和音がひとつでもあったろうか?
初日は、2階席の左サイドで聴いたからまだよかったが、本日は1階席の右サイドにて舞台下手に陣取る彼女らの声を正面からまともに浴びてしまったのだから堪ったものではない。あまりの違和感にオーケストラが聴こえなくなるほど。しばし立ち直るのに時間が掛かってしまった・・・。

N響はたいへんな好演だったと思う。特に低弦には充実度があり、金管、木管共に色彩感の変化を伴ったアンサンブルが見事。ティンパニは強打よりもメゾ・フォルテの美、さらにはピアニシモ、ピアノにかけての無限の段階で魅せた。
ただ、ヴァイオリンについては、ゲスト・コンマスのキュッヒルが素晴らしいほどに、後ろのプルトとの音楽性や技量の差が明らかにされてしまったのは皮肉である。

指揮者からの気をキャッチしてから音に出すまでの情報伝達速度など、キュッヒル一人、次元を異にしていたし、弓の幅やスピード、手首、肘、腕全体や背中の動きなど、何から何までまったく違うのだ。
あのエネルギー感や技術的な示唆を、後ろのプルトがもっと受け取って体現していたなら、さらに高いレベルの演奏となっていたのにと、それだけが惜しまれる。

とはいえ、これほどのコンサートはそうそうあるものではなく、大いに感銘を受けたことは間違いない。

キュッヒルが終始満足そうな表情だったのも印象に残る。きっと、派手なパフォーマンスやはったりとは無縁の実力者、ヤノフスキのことが好きなんだろうな。それを客席から感じられたのも嬉しかった。

いまから、来年の「ジークフリート」が楽しみだ。
ヤノフスキとキュッヒルの益々の健勝を祈ると共に、わが仕事と公演日程が重ならないことを願うばかり。

指揮:マレク・ヤノフスキ [インタビュー]
ジークムント:ロバート・ディーン・スミス
フンディング:シム・インスン
ヴォ―タン:エギルス・シリンス 
ジークリンデ:ワルトラウト・マイヤー*
ブリュンヒルデ:キャサリン・フォスター 
フリッカ:エリーザベト・クールマン
ヘルムヴィーゲ:佐藤路子 
ゲルヒルデ:小川里美 
オルトリンデ:藤谷佳奈枝 
ヴァルトラウテ:秋本悠希
ジークルーネ:小林紗季子
ロスヴァイセ:山下未紗
グリムゲルデ:塩崎めぐみ
シュヴェルトライテ:金子美香
管弦楽:NHK交響楽団 (ゲストコンサートマスター:ライナー・キュッヒル)
音楽コーチ:トーマス・ラウスマン
映像:田尾下 哲


「ワルキューレ」の朝に

2015-04-07 10:29:53 | レコード、オーディオ


東京春祭「ワルキューレ」2日目の朝、「神々の黄昏」を抜粋しながら聴いています。

ヤノフスキの録音は、彼の本番を肌で味わった後に聴くと新たな発見がありますね。

とにかく、楽器間のバランスへの配慮が半端ない。その職人技の凄まじさに心奪われてしまう。その考え抜かれたサウンドを皮膚感覚で楽しむというマニアックな歓びが芽生えてきました。

以前には、迫力不足かな、と思われていた部分も気にならなくなるから不思議なものです。

さあ、本日の午後、ヤノフスキ祭りの最終日、どんな名演となりますか! いまからワクワクしています。


海賊盤CD横行か?

2015-04-05 00:52:47 | レコード、オーディオ


4日の午前。マタイ受難曲・厚木支部のレッスン会場に着くと、このようなCDが大量に出回っていた。ちょっとした驚き!!



ちょうど一週間前のこと。
生放送で語り、歌い、それを聞き流して頂くのは大いに結構なのだが、特に歌唱について、繰り返して聴いて頂けるほどのクオリティであったかどうか自信がなく、未だ自分では聴く勇気が持てないでいるところ。

次に同様の機会を与えられるのであれば、ミニ鍵盤でないキーボードを車で持ち込んで、ボーカル用のマイクなど使って、もう少し本格的に歌わせて頂くことにしよう。

まあ、今回は今回で、こういう素の良さもあった、ということでO.K.としておくか。


聖金曜日の奇跡?

2015-04-04 09:31:50 | コーラス、オーケストラ
昨日は聖金曜日。
CDでは未だ感動できていない鈴木雅明&BCJを実演で体験したい気持ちもあったが、東京ジングフェラインのレッスンのため、それは次の機会に持ち越し。自らの「マタイ」の日となった。

聖トーマス教会公演を11か月先に控え、大きな壁にぶつかっている東京ジングフェラインたが、先日大きな問題提起をしたのが功を奏したのか、そのコラールのハーモニーに、遥か数百キロメートル先に微かな光明の見える瞬間があった。

これぞ、聖金曜日の奇跡だろうか?

団員諸氏には希望を持って頂くとともに、しかし、これで安心してしまわないよう、精進を重ねて欲しい。
もちろん、わたし自身も同じ。月並みだが、平坦ではない数百キロメートルの道を、一歩一歩、前へ進むのみだ。




途切れない注文 愛知祝祭管弦楽団とのブルックナー「8番」

2015-04-02 23:40:45 | コーラス、オーケストラ

愛知祝祭管弦楽団とのブルックナー交響曲第8番のライヴCD。

発売から2か月と10日ほど経ちますが、未だ注文が入りつづけております。

今日も代理店さんに向け、ひとつの箱の発送作業をしました。

発売時の勢いだけで終わるだろう、との自らの予測を超えてくれているのは、本当に有り難いことです。

ご購入頂いた皆様にはもちろんのこと、取り扱ってくださった各ショップに改めて感謝致します。

たとえば、タワーレコード(クラシック)さんの場合。

「ブルックナー」で検索すると、上位から10番目に表示されます(本日現在)。クナッパーツブッシュ、チェリビダッケ、シューリヒト、ドホナーニ、カイルベルトら、錚々たる巨匠たちのCDに次いでの席次ですから畏れ多いと言うほかありません。

先日の鎌倉FMでの放送も新たな売り上げに貢献してくれた可能性も否定できません。パーソナリティの上田和秀さんのファインプレーですね。

本来の趣味がロックで、ビートルズ、イエス、キッスらを愛好する上田さんが、クラシック好きにも長いと思われがちなブルックナー8番を隅から隅まで聴いてくださっていた!

それゆえ上田さんの推薦の言葉に真実味があり、リスナーの胸に響いたのでしょう。

さて、こうなると第2弾のCDを創りたいところだけれど、こればかりは目の前にオーケストラが必要な以上、簡単にはいきません。

自分としては、気力・体力の充実しているうちに1回でも多くのブルックナーを振りたいと思っているのですが・・・。

今暫く、準備期間を頂きたいと思います。

タワーレコード オンライン http://tower.jp/item/3776402/ブルックナー:-交響曲第8番(ハース版),-他

HMV オンライン http://www.hmv.co.jp/artist_ブルックナー-1824-1896_000000000019429/item_ブルックナー:交響曲第8番、バッハ:2つのヴァイオリンのための協奏曲、他 福島章恭&愛知祝祭管、古井麻美子、清水里佳子(2CD)_6146347