福島章恭 合唱指揮とレコード蒐集に生きるⅢ

合唱指揮者、音楽評論家である福島章恭が、レコード、CD、オーディオ、合唱指揮活動から世間話まで、気ままに綴ります。

同い年のレコード・セット ~ メンゲルベルクの芸術第一集、第二集

2015-12-17 14:52:10 | レコード、オーディオ




「メンゲルベルクの芸術」の第一集と第二集である。テレフンケン原盤、国内盤(キングレコード)各3LP。前者が独メタル、後者が英メタル使用とのこと。

いつ頃リリースされたものか検索してみたところ、なんと1962年7月と9月の「レコード芸術」誌の推薦盤であることが判明した。つまりボクと同い年ということである。なんだか愛おしくなるな。

収録されているのは、チャイコフスキー「5番」「悲愴」、ベートーヴェン「1番」「英雄」「8番」、ブラームス「4番」、フランク「ニ短調」といういずれも定評のある名演ばかり。

これほど長年レコード蒐集をしていても、当然ながら手薄なレパートリーはあって、メンゲルベルクのテレフンケン録音は全く手付かずであった。独プレスや英プレスに越したことはないのだろうが、60年代のキングレコードのプレスは優秀であるし、比較的小さな出費でまとめて聴くには十分であろうと入手したところ。

メンゲルベルクのチャイコフスキー「悲愴」については、中学生時代、当時の国内廉価盤を聴いて、サッパリ理解できなかったのを憶えている。いくら解説の宇野功芳が褒めていても、音は貧しかったし、煩雑なテンポの変化についていけなかった。まあ、齢13や14の少年がメンゲルベルクの耽美に溺れるというのも気持ち悪い話なので、むしろ健全だったと言うべきか(笑)。

いま改めてメンゲルベルクの「悲愴」を聴くと、確かに魂の奥底を揺り動かされるものがある。精神性とか内面性という言葉からは、どちらかというと遠いところにあるチャイコフスキーの音楽から、こういう類の感動を呼び起こすメンゲルベルクは、やはり凄い人だったのだ。

ところで、この第3楽章の大胆に見得を切るようなテンポ設定、突然ローギアに落としたような効果は、朝比奈に影響を与えているような気がする。もっとも最晩年の朝比奈はインテンポに傾斜してしまったので、新日本フィル盤ではなく、新星日響とのライヴ盤をお持ちの方は是非較べてみて欲しい。

「書込みあり」に福あり ~ パウル・ザッハー 委嘱作品集

2015-12-14 16:01:16 | レコード、オーディオ


本日は本籍地移動に伴うパスポート書き換えのため新宿へ。

旅券事務所のある都庁は西口だが、帰りがけに健康増進のため東口まで散歩したところ、知らぬ間に左手には薄茶色の紙袋が!

本日の収穫のひとつは、パウル・ザッハー指揮コレギウム・ムジクム・チューリッヒによる「パウル・ザッハー 委嘱作品集」。

文字通り、現代音楽の推進者・庇護者であった作曲家・指揮者のパウル・ザッハーが同時代の作曲家に個人的に委嘱した作品が収められた3枚組のレコードである。

マルタン「小協奏交響曲」、マルティヌー「二重協奏曲」、バルトーク「ディヴェルティメント」、オネゲル「交響曲第2番」「クリスマス・カンタータ」、ストラヴィンスキー「二調の協奏曲」、ヘンツェ「弦楽のためのソナタ」という魅惑の作品が並ぶ。ザッハーがこの世に生まれなければ、これらの作品が存在しなかった、と考えると、ザッハーの功績は大きい。



「箱に書込みあり」とのことで、格安だったが、ボクの目にはパウル・ザッハーのサインにしか見えない・・。
お店の試聴機で聴く限り、録音もかなり優秀。書込みに福があったようである。

追記
スウィングロビンのレッスンより帰宅し、バルトーク「ディヴェルティメント」、オネゲル「交響曲第2番」に針を降ろしたところ、演奏も音もなんという瑞々しさ! まさに超弩級のオーディオ・ファイル。

富士フィル創立30周年記念演奏会 マーラー「復活」

2015-12-13 23:05:13 | コンサート

富士フィルハーモニー管弦楽団創立30周年 記念演奏会

マーラー:交響曲第2番ハ短調「復活」

2015年 12月 13日 (日) 14:00開演
富士市文化会館 ロゼシアター 大ホール
指揮:十束 尚宏
独唱:井岡 潤子 (ソプラノ)
    児玉 祐子 (アルト) 

ふじのくに記念合唱団(合唱指揮:福島章恭)

マーラー「復活」がベルリンで初演されてからちょうど120年目の今日、富士フィルの創立30周年記念演奏会が開催されました。

十束先生の緻密な設計と渾身の棒による感動的な演奏会。空前の大成功と呼んでよいでしょう。

富士フィルはとてもよく訓練されていて、素晴らしいアンサンブルだったと思います。特に本番の熱さは格別でした。

独唱の井岡さん、児玉さんも深い音楽を聴かせてくださいました。

合唱は、練習時から出だしの超弱音のアカペラに苦労しましたが、必要最低限のレベルはなんとかクリアし、富士フィルさんの祝典に花を添えられたと思います。

いまは、合唱指揮者としての責任を果たせたことに安堵しているところ。

個人的には学生時代の憧れの先輩「十束さん」とはじめてお仕事をご一緒させて頂いたことも嬉しかったです。

因みに、今回は久しぶりに自分もコーラスに参加し歌いました。

なかなかボクが団員に指導しているとおりに歌えなくて反省しております(笑)。もう少し、自分の歌も磨かなくては・・・。

とまれ、富士フィルさん、30周年記念演奏会のご成功おめでとうございます。

オーケストラとコーラスでタッグを組み、富士市の音楽文化を発展させてゆければ、と思います。どうぞ、末永く宜しくお願いします。

 


夜更けに心の調律 ~ フィッシャー=ディースカウ ヴォルフ「メーリケ歌曲集」を聴く

2015-12-11 23:59:58 | レコード、オーディオ


今宵の東京ジングフェラインの「マタイ受難曲」レッスンは、大阪組、厚木組からの参加者に加え、男声に3名の賛助出演者を迎え、たいへんに充実したものとなった。

本番のイメージがようやく見えてきた想いがする。その意味で今日はひとつの記念日と呼べるかもしれない。



そうした満ち足りた気持ちで帰宅し、早速、マイソニックラボのEminent Soloをヘッドシェルに装着。クナッパーツブッシュのブルックナー4番 英デッカ・オリジナル盤を再生したが、実にお見事。ウィーン・フィルの溶けるような金管群、鄙びた木管群、そして、艶やかな弦の歌に恍惚となった。間違いなく、我が家でクナッパーツブッシュのロマンティックが最も美しく鳴り響いた瞬間である。



夜も更けてきたので、ブルックナーは第1楽章のみに留め、いまは手に入れたばかりのフィッシャー=ディースカウの歌うヴォルフ「メーリケ歌曲集」を聴いている。ピアノはジェラルド・ムーア。同歌曲集53曲中の37曲が3枚組のレコードの5面にわたって納められている。6面中の1面はブランクだ。レコード番号は英EMI ALP1617-19でもちろんモノーラル・プレス。同じ歌唱のステレオ・プレスの有無は分からない。




いやあ、なんという歌唱芸術だろう。この完璧の前に言葉は不要。フィッシャー=ディースカウの歌声が忙しさに疲れ、ささくれ立った我が心を穏やかに調律してくれるようだ。

この凄みを孕んだ美しさ、若い頃には分からなかった。上手すぎると敬遠していたことを恥じるのみだが、いまこうして素直に享受できる自分を歓びたい。

マイソニックラボ Eminent Soloと出会う

2015-12-11 09:50:27 | レコード、オーディオ


随分前から存在の気になっていたマイソニックラボのカートリッジ。このたび、同ブランド唯一のモノーラル・カートリッジEminent Soloとご縁があった。掘り出し物と呼べる新古品と出会ったのである。



最初に選んだ盤は、マイルス・デイヴィス・カルテットの米Analogue Productions社による45回転復刻盤(5アルバム10枚組)からCOOKIN'。

実に落ち着いた大人のサウンドで、その深さと熱さに恍惚となる。なんという至福。

実は、この復刻レコード。ダイナミックレンジが極度に広いためか、長年愛用しているシェルターのモノーラル・カートリッジでは、ドラムスの強打の際などに音がビビってしまったのだが、Eminent Soloは余裕でクリアしてしまう。シェルターも優秀で魅惑的なカートリッジではあるが、懐の深さにおいてマイソニックラボに軍配が挙がるようだ。とともに、Analogue Productionsのプレスに非のないことも判ってよかった。



しかし、その後、クナッパーツブッシュのブルックナー4番「ロマンティック」など英デッカの古いモノーラル盤などを再生すると不満も出てくる。高弦の音色に魅惑が足らないのである。そこで、ヘッドシェルをフェーズテックからZYXに交換するとかなり改善された。

ただ問題もある。Eminent Solo、ZYXヘッドシェルともに自重が軽すぎて、我がサエクWE407/23アームではコントロールし難いのだ。というのも、このサエクの名器は稀少品で本体を入手するだけで精一杯。未だ軽量カートリッジ用のバランスウェイトが見つからないからである。

というわけで、新たな相方としてマイソニックラボのヘッドシェルを用意した次第。同じブランド同士で妙なる楽の音を奏でてくれることを祈るばかり。早く試したいのだが、いまは、ホテルの部屋でその姿を眺めるのみ。

ああ早く家に帰りたい。

来たれ! 大阪フィルの「第九」へ

2015-12-11 00:50:59 | コーラス、オーケストラ

今宵は大阪フィル合唱団の「第九」レッスン。あまりにも歌い慣れてルーティンになっているところを、徹底的に鍛え直しているところ。




20日(日)には、コバケン先生との
「炎の第九」(ザ・シンフォニーホール)。
29日(火)、30日(水)には、いよいよマエストロ道義先生との「第9シンフォニーの夕べ」(フェスティバルホール)。

井上先生とは、倉敷、京都に次いで三度目の「第九」となるが、大阪フィルでは初の共演となる。凄いことになりそうな予感!

チケットの売れ行きも好調とか。
会場にてお待ちしてます!



※写真はすべて大阪フィルTwitterより転載しました。撮影: 飯島隆

ドイツ楽旅 全行程完成

2015-12-10 12:57:57 | コンサート
年明け3月1日のライプツィヒ 聖トーマス教会での「マタイ受難曲」公演のためのドイツ楽旅の行程が、下記ベルリン・フィル公演のチケット確保をもって、本日めでたく完成した。

2月18日 &19日アンドルー・マンゼ指揮ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管によるハイドン&ブリテン・プログラムに始まり、3月3日&4日 マリス・ヤンソンス指揮ベルリン・フィルによるショスタコーヴィチ「10番」によって閉じるという壮大な楽旅。

ドイツ楽旅といっても、滞在地はライプツィヒ、ドレスデン、ベルリンの3都市限定。

上記の他、ライプツィヒでは、アラン・ギルバート指揮 レイフ・オヴェ・アンスネス(pf) ゲヴァントハウス管によるシベリウス&シューマン・プログラム、ウルフ・シルマー指揮の「ワルキューレ」「ジークフリート」。



ドレスデンではクリスティアン・ティーレマン指揮「ワルキューレ」、パオロ・アッリヴァベーニ指揮「ドン・カルロ」、アンドリス・ネルソンス指揮SKDのショスタコーヴィチ「8番」などを聴く(観る)こととなった。

ドレスデンのゼンパー・オパー、ライプツィッヒのゲヴァントハウス及び歌劇場、ベルリンのフィルハーモニーホール、いずれもはじめて訪れるホールなので、今から楽しみである。

人目にはなんだか遊びに行くように映りそうだが、今回のドイツ楽旅のメイン・イヴェントが、聖トーマス教会の「マタイ受難曲」公演にあることは間違いない。さまざまな刺激を受け、養分を吸収し、良い演奏会にしたいと思う。

ミクローシュ・ペレーニ バッハ無伴奏2日目を聴く

2015-12-07 14:37:34 | コンサート

昨日は久しぶりに仕事のない日曜日なので、家でノンビリ過ごしたいところであったが、ペレーニのリサイタル、しかも、バッハの無伴奏ときけば出掛けないわけにはいかない。

前回聴いたときは息子ベンジャミンのピアノとの共演であったが、ペレーニには申し訳ないが、父子の芸格の差は歴然として、酔えない部分もあった。

無伴奏ということで、ペレーニを満喫できるのが嬉しい。

4日(金)に初日を終えての2日目の演目は、2番ニ短調、3番ハ短調、6番ハ長調の3曲。

もっと劇的に、ものものしく演奏してもよい2番ニ短調を、ペレーニは優しく、慈しむように奏する。

どんなときもテンションを目一杯高めるのではなく、余裕を持った表現で、そこに懐の深さを感じさせるところがペレーニの真骨頂がある。

圧巻は、6番ハ長調。

休憩を挟んでペレーニの魂がより躍動しているのが伝わってくる。

ハイポジションの多用される技巧的な難曲でありながら、技術的な問題は皆無。

67歳という年齢を考えれば、「音はかすれたけれど味があった」「技術を超えた精神性があった」という類いの感動でも十二分な筈なのだけれど、ペレーニは技巧的にも現役なのだ。

日々の弛まぬ精進が確信に満ちた音となって聴く者の胸に迫る。

ペレーニの演奏を聴きながら、どこかこれに似た感覚があったな、と思い出したのが、我が両親の故郷、鹿児島県に立つ日本一の巨木「蒲生の大楠」だ。

蒲生八幡神社のご神木である樹齢1500年を越す大木の下に佇んだとき、大きく伸びた枝々から降り注ぐ気のエネルギーを浴びながら感じた安心感がペレーニの音になるのだ。

そう、まるで古木の歌うのを聴くような感覚。

ステージを眺めていると、どこからペレーニで、どこからチェロなのか分からないくらいに、ペレーニと楽器が一体化しているのが分かる。

アンコールは、1番「アルマンド」と4番「ブーレ」。

本編にはあった全曲演奏という重圧、緊張感からペレーニの魂が自由に解き放たれ、眩いばかりの光彩を放っていた。

まこと至福のひとときであった。

J.S.バッハ 無伴奏チェロ組曲全曲演奏会

ミクローシュ・ペレーニ(チェロ)

J.S.バッハ:無伴奏チェロ組曲

第2番 ニ短調 BWV1008/第3番 ハ長調 BWV1009/第6番 ニ長調 BWV1012

12月6日(日) 14時 浜離宮朝日ホール


 

 


橿原神宮詣り~「海道東征」公演のご報告

2015-12-06 10:16:16 | コーラス、オーケストラ


カルミナ・クァルテットを聴いた翌日、ちょうど1週間前の11月29日(日)。
13時からと思い込んでいた大阪フィル合唱団の「第九」レッスンの時間が17時半からであることに気付いたのが、新幹線車中、京都の僅か手前。

「紅葉見物でもするか」
と慌ててホームに降り立ったものの、シーズン盛りの日曜日とあって改札の外は初詣のような恐ろしい人出。
「こりゃ、かなわん」
というわけで、京都からの脱出を決め、急遽近鉄特急に乗り込んでは、奈良の橿原神宮に向かうこととした。

思わず信時潔先生の「海道東征」に出会せて頂いた感謝と公演の成功をご報告する機会が与えられたというワケである。



30余年ぶりに訪れた橿原神宮の神聖にして清々しい空気! 創建125年目にして初という御本殿の特別参拝の叶ったことも大変な幸運(ただし、撮影不可)で、展示されていた古代船「おきよ丸」の模型をみては、「海道東征」の第3章「御船出」の雄々しき旋律「日はのぼる・・」を口ずさんだものだ。













有り難いことに、お土産として、手縫いとともに現在改修中の屋根の檜皮片を御守りとして頂いた。





さらに、天皇陛下の勅使の控える「勅使館」の特別公開にもあたり、稀少な体験となった。





レッスン時間を間違えたことから訪れた僥倖。これも、「海道東征」コーラスを仕上げたご褒美かな、と勝手に解釈している。