明鏡   

鏡のごとく

いきもの税

2009-10-05 13:39:19 | 小説
確かあれは、二日前の事であった。

マンションの駐車場に、みかけない白っぽい佐賀の わ ナンバーの車が止まっていた。

二人の灰色っぽい背広を着た中年の男たちが乗っていたものであった。

一人の男は黒っぽい眼鏡をしていて、白黒混じった灰色がかった髪をしていた。

もう一人の男は黒く短くしていた。

何をしているのかと思った。

猟犬か泥棒猫のように、獲物か何かを待っているようであったし、鼻を鳴らしながら、調べているようであった。

昼間であったので、誰か友人か仕事関係の人を待っているのだろうと思ったが、車で出かけて、少しして帰ってくると、その男達は、立体駐車場のすぐ前の溝を覆っている鉄網をわざわざ外してみていた。

背広で、溝を覗いているのはなぜなのだろうと思いつつ、なにか落とし物でもしたのだろうか。

と思いつつ、自分の部屋に帰った。


また、迎えに行く為に外に出ようとした一時間後、部屋の外のちゃいむのカバーがむき出しになっているのに、気づいた。

帰って来た時は、気づかなかったので、その一時間の間に、むき出しになったのであろうか。と思って、どこかでぞわっとしたものがこみ上げて来た。

あの二人の男達のことが、頭に浮かんで来た。

階段を下りて行くと、あの男達が、車に乗り込み、何かを待っていた。

降りてくるのと同時に、車はじわじわと後ずさりするように、奥の方に移動して行った。

それから、目が合うと、にやにやしながら車は徐に出て行った。

溝を探し疲れて、ここには、ごみも、さがしものも、待ち人も、時間も、何もない。

とでも思ったのであろうか。


それから、車に飛び乗り、走り出した。

すると、さっきの二人組の車が、どこからともなくついて来ている事に気づいた。

まさか、つけ狙われていたのは、この車を運転している自分あるいは車なのだろうか。

と、思いつつ、何か気になって、一軒家の近くの友人のところに立ち寄ると、その車も徐に立ち止まった。


その二人の男が乗っている車の方に歩き、硝子越しに尋ねた。


 なにか、用事でもあるのですか。


助手席の眼鏡をつけたほうの男が、目は笑わずに、しかし犬が白目をむくように言った。


 いやね。最近、ここいらの方から通報がありましてね。犬を隠し飼っている人がいるという事でね。「いきもの税」の中の「犬税」と「信仰税」「愛友解放税」を払っていないものが、ずいぶんいるということでね。内部調査を行っているところなんです。ところで、あなたのおたくでもなにか、いきものを飼っていたりはしないですか。ゴミを分別した結果、あなたとは違ういきものの分泌物が付着していて、そのDNAが多数認識されていたものでね。


 ああ。なんということだ。
 すでになくしてしまったものに対するなんという冒涜。
 一匹の鼠 猫虱 金魚 ひとにさえ税がいるということか。
 ましてや「しにもの税」など、いらないはずだ。