ニューデリー 3日 ロイター] - 中国の潜水艦増強に近隣諸国が警戒感を強めるなか、インドは海軍の近代化プログラムを加速させている。同時に、中国のインド洋進出を食い止めるべく、インドはスリランカなどの周辺国に圧力をかけている。
インドと中国の係争地カシミール地方で両国軍がにらみ合う事態に発展した直後の今年9月、中国の潜水艦がインドの南に位置するスリランカに初めて寄港した。中国はまた、インド洋に浮かぶ島国モルディブとの関係も強化している。
こうした動きは、インド洋での存在感拡大を狙う中国の強い意志を映し出しており、南シナ海の領有権問題が緊迫化するのと時を同じくして進んでいる。
インド海軍の元司令官アルン・プラカシュ氏は「我が国の潜水艦規模縮小は憂慮すべき問題だが、中国がヒマラヤや南シナ海、そして今やインド洋でも圧力を強めていることを考えれば、なおさら懸念すべきことだ」と指摘。そのうえで「幸運なことに政府はこの危機に目覚めた兆しはあるが、再建には時間がかかる。中国との対決に巻き込まれないないよう、外交や同盟が抑止力になるよう願う」と語った。
モディ首相が率いるインド政府は現在、ムンバイ港でフランスの造船企業DCNS製の通常動力型潜水艦6隻の建造を進めているほか、推定5000億ルピー(約9600億円)を投じて別の通常型潜水艦6隻の建造も計画している。
インド初の国産原子力潜水艦は今月に海上試運転を行い、2016年後半に就役が予定されている。また複数の海軍当局者はロイターに対し、ロシアとは2隻目となる原子力潜水艦のリースで協議中だと明かした。
事情に詳しい関係筋によると、さらにインド政府は同国最大級の工業・建設会社ラーセン・アンド・トウブロ(L&T)<LART.NS>に対し、追加で2隻の原子力潜水艦の建造を打診しているという。
アジア・太平洋地域では、オーストラリアが日本から最新鋭ステルス潜水艦を最大12隻購入することを検討しており、ベトナムはキロ型潜水艦の最大4隻の追加(現在は2隻保有)を計画している。
また尖閣諸島問題などで中国と対立する日本は、今後約10年をかけて、ディーゼル潜水艦の数を現在の16隻から22隻に増強する。
<規模で劣勢のインド>
インド海軍が現在保有するディーゼル潜水艦は老朽化した13隻のみ。常時修理の必要があるため、そのうち実際に稼働できるのは半分に過ぎない。昨年には1隻がムンバイで停泊中に爆発炎上事故を起こした。
一方、中国は通常型潜水艦を60隻、原子力潜水艦を10隻保有しているとみられ、そのうち3隻は核兵器を搭載していると推測される。
中国戦略研究センターの馬佳氏は、インド洋をめぐる中国政府の最大の関心は、石油をはじめとする資源の輸送ルートであるシーレーン(海上交通路)防衛にあると指摘。「インド国内ではインド洋は自国のみに属するという声が多いが、当然ながらそうではない。中国とインドの間で対話や協議があるべきというのが我々の考えだ」と語った。
インドが空母2隻を含む約150隻の艦艇を持つ海軍を作ろうとする一方、中国は約800隻の海軍能力を持っており、軍当局者や専門家らは、双方が鉢合わせする公算は比較的大きいと指摘する。
オーストラリア国立大学の客員研究員デビッド・ブリュースター氏は、インドはインド洋での支配的な地位を回復させるためには何でもするだろうと指摘。それには、日本やオーストラリアとの海軍面での協力模索のほか、マラッカ海峡から140キロの距離にあるアンダマン諸島の軍基地拡大などが含まれるという。
同氏は「インドは中国海軍の艦艇の存在を侵入と見なしている。中国艦の存在感は大幅に増しており、明らかにインドにメッセージを送る意図がある」と指摘する。
中国の潜水艦の存在をめぐり、インドはスリランカとの間で激しい外交を行っている。9月の中国艦寄港については、今年モルディブを含む3国で締結した協定に基づき、インドに事前に知らせるべきだったとしている。
インドはまた、バングラデシュが開発を望んでいるベンガル湾ソナディアでの80億ドルに上る深水港プロジェクトへの関与も強めている。同プロジェクトは中国港湾工程有限責任公司(CHEC)が入札で先頭に立っているが、インドのアダニ・グループも10月に開発案を提出した。
ブリュースター氏は「もし中国がやり方を変えず、インド洋での存在感も今の水準を維持するなら、インドは対応の必要を感じるはずだ」と語った。
(原文:Sanjeev Miglani and Tommy Wilkes、翻訳:宮井伸明、編集:新倉由久)
インドと中国の係争地カシミール地方で両国軍がにらみ合う事態に発展した直後の今年9月、中国の潜水艦がインドの南に位置するスリランカに初めて寄港した。中国はまた、インド洋に浮かぶ島国モルディブとの関係も強化している。
こうした動きは、インド洋での存在感拡大を狙う中国の強い意志を映し出しており、南シナ海の領有権問題が緊迫化するのと時を同じくして進んでいる。
インド海軍の元司令官アルン・プラカシュ氏は「我が国の潜水艦規模縮小は憂慮すべき問題だが、中国がヒマラヤや南シナ海、そして今やインド洋でも圧力を強めていることを考えれば、なおさら懸念すべきことだ」と指摘。そのうえで「幸運なことに政府はこの危機に目覚めた兆しはあるが、再建には時間がかかる。中国との対決に巻き込まれないないよう、外交や同盟が抑止力になるよう願う」と語った。
モディ首相が率いるインド政府は現在、ムンバイ港でフランスの造船企業DCNS製の通常動力型潜水艦6隻の建造を進めているほか、推定5000億ルピー(約9600億円)を投じて別の通常型潜水艦6隻の建造も計画している。
インド初の国産原子力潜水艦は今月に海上試運転を行い、2016年後半に就役が予定されている。また複数の海軍当局者はロイターに対し、ロシアとは2隻目となる原子力潜水艦のリースで協議中だと明かした。
事情に詳しい関係筋によると、さらにインド政府は同国最大級の工業・建設会社ラーセン・アンド・トウブロ(L&T)<LART.NS>に対し、追加で2隻の原子力潜水艦の建造を打診しているという。
アジア・太平洋地域では、オーストラリアが日本から最新鋭ステルス潜水艦を最大12隻購入することを検討しており、ベトナムはキロ型潜水艦の最大4隻の追加(現在は2隻保有)を計画している。
また尖閣諸島問題などで中国と対立する日本は、今後約10年をかけて、ディーゼル潜水艦の数を現在の16隻から22隻に増強する。
<規模で劣勢のインド>
インド海軍が現在保有するディーゼル潜水艦は老朽化した13隻のみ。常時修理の必要があるため、そのうち実際に稼働できるのは半分に過ぎない。昨年には1隻がムンバイで停泊中に爆発炎上事故を起こした。
一方、中国は通常型潜水艦を60隻、原子力潜水艦を10隻保有しているとみられ、そのうち3隻は核兵器を搭載していると推測される。
中国戦略研究センターの馬佳氏は、インド洋をめぐる中国政府の最大の関心は、石油をはじめとする資源の輸送ルートであるシーレーン(海上交通路)防衛にあると指摘。「インド国内ではインド洋は自国のみに属するという声が多いが、当然ながらそうではない。中国とインドの間で対話や協議があるべきというのが我々の考えだ」と語った。
インドが空母2隻を含む約150隻の艦艇を持つ海軍を作ろうとする一方、中国は約800隻の海軍能力を持っており、軍当局者や専門家らは、双方が鉢合わせする公算は比較的大きいと指摘する。
オーストラリア国立大学の客員研究員デビッド・ブリュースター氏は、インドはインド洋での支配的な地位を回復させるためには何でもするだろうと指摘。それには、日本やオーストラリアとの海軍面での協力模索のほか、マラッカ海峡から140キロの距離にあるアンダマン諸島の軍基地拡大などが含まれるという。
同氏は「インドは中国海軍の艦艇の存在を侵入と見なしている。中国艦の存在感は大幅に増しており、明らかにインドにメッセージを送る意図がある」と指摘する。
中国の潜水艦の存在をめぐり、インドはスリランカとの間で激しい外交を行っている。9月の中国艦寄港については、今年モルディブを含む3国で締結した協定に基づき、インドに事前に知らせるべきだったとしている。
インドはまた、バングラデシュが開発を望んでいるベンガル湾ソナディアでの80億ドルに上る深水港プロジェクトへの関与も強めている。同プロジェクトは中国港湾工程有限責任公司(CHEC)が入札で先頭に立っているが、インドのアダニ・グループも10月に開発案を提出した。
ブリュースター氏は「もし中国がやり方を変えず、インド洋での存在感も今の水準を維持するなら、インドは対応の必要を感じるはずだ」と語った。
(原文:Sanjeev Miglani and Tommy Wilkes、翻訳:宮井伸明、編集:新倉由久)