明鏡   

鏡のごとく

『からすがえすも』

2014-12-07 21:30:02 | 詩小説
少年は友達と宿題をしていた。

何度も何度も繰り返すドリルの宿題。

終わったと思ったら、もう一度、最初からやり直すことになっている。


最低三度はやり直してください。


と、先生から言われている。今日で三度目だ。

これが終わりかといえば、そうでもない。

時間が有り余っているものは、何度でもやり直していいことになっている。

少年には、余り時間がなかった。

それでも、なんとか、三度目までやったのだ。

友達と一緒に。

答えは見ていない。

答えは自分の中にあるだけだった。

何度やっても、これしか見つからないのだ。これが答えなのだろう。

三度目の最後の問題を解いていた。

三角形の角度の問題。

三角形の内角の和は。180度。
∠100度と∠30度を足して∠130度。
だから、180度からそれを引くと。
答えは∠50度。

とノートに答えを書くか書かないかの時、窓の外で、黒い風かゴムのような塊か地震が真横からきたような、何かが体当たりしたような、「ごっ」という音がした。

透明なガラスには赤いトマトか熟れた柿があたってびしゅっと飛び散った波紋のようなものが残っていた。

何かが当たったのは間違いなかった。

カラスだった。

きらきらしたガラス玉を集めるというカラスがキラキラしていたのかどうかは分からないが、ガラスに突っ込んできたのだ。

薄ら寒い灰色がかった空から、丁度、50度くらいの角度で、カラスダマになったように。

少年めがけて飛んできたのだった。

少年とカラスを遮るのは、一枚のガラスだけだった。

カラスは、鮮血を三滴残し、元きた方向へよろよろと帰っていった。


もしも、あのカラスが今度来たら、どちらか、いや、角度によっては、すべてが壊れるかもしれない。


少年には、ガラス一枚と角度の問題が残されたままだった。