明鏡   

鏡のごとく

『てぃらみす』4

2015-12-07 00:49:23 | 詩小説


大濠公園の池の畔にある店で「てぃらみす」をはじめてたべた。

正確に言うと、その店にはじめて入ったのだった。

いつも誰かの魚釣りをみるか、美術館に用事があるか、散歩をするかで、店は眺めるばかりで素通りしていたのだ。

その日に限って、何故か立ち寄ったのには、わけがあった。

あの人の命日であったからだ。

近くの神社で無言のお参りをした後、なぜかしら、一人でないような心持ちがして、この店に誘われるように入ったのだった。

肌寒くなってはきたものの、店の中よりも、池に面したテラス席に座ることにした。

池の上に口を出さないと息ができずに死んでしまう魚になった気がした。

龍宮寺に祀られているという骨太の人魚もここいらまできていたのだろうか。

埋め立てられているので、ここいらも、海にほど近かったようで、まんざら当たらずも遠からずではなかろうか。

などと思っていると、ウェイターの男性が白湯とひざ掛けをもってやってきた。

濃やかな気遣いに、少し生き返った。


ランチには、デザートがつけられますが、どうされますか。


ウェイターの男性が、目を鳩のようにくるくるさせながら、言った。


今日は何なのですか。


てぃらみすです。



食べるしかない。

死から引っ張りあげられるのは、そういう何かにつけて重ね合わされてできていくものなのだと、薄々気づいてきたからだ。