猫とアイロン

 五月にしては冷えた日曜日の夜、シャツにアイロンをかけていると、ソファの上の定位置で寝ていたみゆちゃんが、つと起き上がって、そばへやってきた。アイロンをかける手を止めてなでてやると、ごろごろ言ってすり寄ってくる。やけどをしないよう、立てて置いたアイロンを遮るように出した手のひらにも、ぐいぐい頭を押しつけてくるので、しまいに猫の湿った鼻が、じゅっと音を立てるのではないかとひやひやしていたら、膝の上に上ってきた。膝に来るのは珍しいので、今日は少し寒いからかなと思ったら、私の膝はだた踏み台に使っただけで、膝を渡って、アイロンをしかけてほかほかするシャツの上に寝転がった。わたしの膝よりもアイロン台のほうが暖かいのをどうしてわかったのか不思議である。しわを伸ばしたシャツの上でごろんごろん転がるので、白い細かい毛がたくさんついて、知らずに着たら、背中がこそばゆくなりそうである。
 子猫の時分には、アイロンをかけていると、広げたシャツが天幕みたいになったアイロン台の下に、もぞもぞと身体をかがめてもぐって行った。しばらくそこでじっとしているので、台の下も暖かいのかしらと思っていたら、台から垂れたシャツの裾から、みゆちゃんの手が、肉球の側を上にしてにゅっと突き出てきた。にゅっと出ては、台の縁を引っ掻くような動きをするので、ピンクの肉球がアイロンに触れないか心配で、作業を中断せざるを得なかった。
 余熱の残ったアイロン台の上でお腹をさすってもらい、気持ちよさそうにごろごろしているみゆちゃんは、近ごろ丸まるふとったから、さわり心地はとてもいいけれど、もう狭いアイロン台の下へもぐり込むのは、なかなか億劫なのかもしれない。
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