クレヨン味のチョコレート

 また風邪をひいた。
 今度は鼻風邪で、鼻水が出たり鼻が詰まったりするので、食べ物の味がちっともわからない。うまいもまずいもないので、この際、好きなものは食べても値打ちがないから差し控えて、いつもなら嫌いなものを中心に食べようかなどと思う。子供の頃、嫌いな食べ物を、鼻をつまんで食べると、食感だけは残るけれど、味は消えて、何とか食べられたような記憶がある。
 もっとも、嗅覚がきかなくても、塩味、甘味、苦味、酸味などの味覚は感じることができるらしい。しかし、もっと複雑な風味となると、嗅覚がなければわからない。味覚と嗅覚両方の情報を脳でひとつに統合し、はじめて風味として認識されるのである。
 「このメロン、ビニールの味がする」とか「クレヨン味のチョコレート」とか「香り付き消しゴムの味がするリゾット」とか言うと、たいてい、それではお前はクレヨンとか消しゴムを食べたことがあるのか、と聞き返されるのだけれど、味覚と嗅覚のあいだにはこれほど密接な関係があるのだから、こういった感想もあながち突拍子もないものでもあるまい。
 ともあれ、食べ物の味がしないから、食欲もあまり起きない。これは、猫の場合さらに顕著である。人間なら、味がしなくても、食べろと言われれば食べることができるけれど、鼻づまりの猫に、どれだけおいしいものを勧めてみても、ちっとも食べようとはしない。普段は大好きな刺身を鼻先に持っていっても、まるで無関心である。人と違って猫の場合、まったく食べられなくなるから、猫の鼻づまりは、はやく治してあげたい。
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