ちゃぷりの操

 近ごろ、実家の庭に近所の猫がよく侵入してくる。縞ぶちの雄で、外猫用のえさを食べに来るのである。
 えさを食べに来るだけならかまわないけれど、外猫のポチと喧嘩をして、ポチはしょっちゅう顔に引っ掻き傷をこしらえているから、表で猫の喧嘩の声が聞こえると、家の者はポチに加勢するためいつも慌てて飛び出していかなければならない。
 このあいだも、母が二階のベランダで洗濯物を干していたら、庭に争いの声が上った。とっさに声のした方を見て、母は焦った。体勢を崩したポチがほとんど仰向けにひっくり返っており、そこへあの縞ぶちが、まさに襲いかからんとしているのである。万事休す…
 そのとき、二匹のあいだへ突如跳び出して行ったものがあった。なんとちゃぷりである。ちゃぷりは縞ぶちに跳びかかって追い払い、見事ポチの窮地を救ったのであった。
 ときどき動物番組などを見ていると、雌は争いに勝った雄を相手に選ぶのが普通である。同じネコ科の雌ライオンは、わざと雄同士を闘わせたりする。強い子孫を残したいという生物の本能によるところだろうけれど、ちゃぷりは、そういう動物的本能に反してまで、人(猫)生の伴侶たるポチへの操を守ったのである。
 いつも要領が悪くて可愛げのないちゃぷりだけれど、この一件でずいぶん女を上げた。ちゃぷりは一生懸命、縞ぶちに立ち向かっていったのだろう。けれど、あのころころとよく太った根暗顔のちゃぷりが、どこかからポチがやられそうなのを見ていて意を決し、必死な表情で転がるように駆けて行くところを想像すると、なんとなく可笑しくなってしまうのである。
コメント ( 6 ) | Trackback ( 0 )