猫の利き手

 朝、家の者が皆起き出してしまったあとも、みゆちゃんは目をちらとも開けようとせず、専用座布団の上でぐっすりと眠っている。胸元で折りたたんだ前足の、白い毛のあいだから覗くピンク色の肉球が、黒く汚れていた。さては、どこかで夜遊びしていたらしい。昨夜、玄関の土間にヤモリが入り込んでいて、それをじっと注視していたから、ヤモリを外へ逃がしたあとも、そのあたりで遊んでいたのかもしれなかった。
 濡れ雑巾で足の裏を拭こうとして、汚れているのは左の前足だけであることに気がついた。右の前足はまったくきれいである。みゆちゃんは、左利きなのかしらと、ふと思った。
 もうずいぶん前の、中学生か高校生だった頃、家に遊びに来た従兄が、その頃家にいた犬が右の前足で何度も父の足を引っかいて食べ物をおねだりするのを見て、この犬は右利きだなあ、と言った。それまで、動物の利き手など考えたこともなかったので、この従兄の意見は新鮮であった。
 そのことを今も覚えているので、ときどきみゆちゃんはどっち利きなのだろうと思って、遊んでいるときの手の出し方を見るのだけれど、いつも使う手はばらばらで、どちらをよく使うという傾向は見出せないでいた。それが、今朝、左手だけが汚れているので、左利きなのかなと思ったのである。
 そもそも、猫に利き手はあるのだろうか。ネットで調べてみると、あると言う人と、ないと言う人がいる。
 あると言う人の話では、おもちゃで遊ぶときに、先に出す手が利き手であって、人間を含め、ほとんどの動物は、右利きの方が多いのに、猫だけは左利きが多いのだと言う。また、イギリスのなんとかという博士が、利き手があったほうが脳が活性化されるのだと言ったらしい。うちの子はどっち利きです、などと紹介している人もいる。。
 ないという人の言い分は、もしも利き手があれば、獲物を獲るときや、敵から逃げるときに不利である、どちらの手もさっと出せるように、利き手はないのだということだった。
 そのあとも、みゆちゃんがトイレのあとどっちの手で砂をかけるだろうと見ていたけれど、やはり特に決まっているようではなかったので、朝、左手だけが汚れていたのも、たまたまそちらを使ったということに過ぎないのかもしれない。
 利き手があると不利だという理由ももっともだと思うし、何よりも日ごろのみゆちゃんの手の使い方を見ていて、左右に偏りはないように思われるので、私には猫に利き手はないというのが正しいように思えるのだけれど、みなさんは、どうだろうか。
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