めだか三代物語(4)

 次の夏までには、親のめだかは八匹になっていた。死んだ四匹の中に黒めだかも一匹入っていたので、黒めだかは一匹だけになった。
 生き残った黒めだかのことを黒ちゃんと呼んで可愛がった。一匹だけをひいきするのは良くないけれど、ほかの緋めだかたちはどれがどれだか区別がつかないし、名前も付けようがなくて、自然、黒ちゃんに注意がいった。
 黒ちゃんは雌で、どんどん卵を産んだ。もともとがからだの弱い黒めだかなのに、産卵を繰り返すことで、寿命が磨り減っていくのではないかと心配になった。お腹に五つ、六つの卵をつけて泳いでいるのを見るたびに、もういいよ、もういいよ、と心の内に思った。
 黒ちゃんの子供たちは、十匹余りが育ったが、二〇〇五年の十月一日に、とうとう黒ちゃんは死んでしまった。
 七匹の親めだかと、十数匹の子めだかは、その冬を越したけれど、去年の夏、一晩のうちに次々と死んで、とうとう全滅してしまった。先に書いた友人の家でも、この夏にたくさんのめだかがいっぺんに死んでしまったというから、気候か何かが原因しているのかもしれない。
 その親めだかが死んでいなくなった鉢を、はやく片付ければいいものを、不精な性格からしばらくそのままに置いておいたら、ある日、緑色になった水の面に、小さな子めだかが泳ぐのを見つけた。親は死んでしまったけれど、卵は残っていたのであった。そう思うと、感慨深いものがあった。黒めだかもいて、黒ちゃんの遺伝子は、ちゃんとそこに受け継がれていた。
 親が死に絶えた水の鉢から育った四匹の緋めだかと一匹の黒めだかが、ふたたび親となって、先日、新しい赤ちゃんめだかが生まれたのであった。三年前、ホテイアオイの根っこにくっついて、我が家にやって来た黒ちゃんたちの孫である。小さな水槽の中で、命は廻っているのであった。
 だけれど、うちのめだかは血が濃い。少しでも健康な子供たちが生まれるように、よそから新しいめだかを呼んで来ようかと考えている。(了)
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