猫のお手柄

 家の二匹の金魚、きんちゃんとぎよちゃんのうち、ぎよちゃんは何の変哲もない平穏な人生(金魚生)を送っているのだけれど、きんちゃんのほうはよく病気になったりと、山あり谷ありである。
 同じ水槽で同じ餌をやっているのに、スレンダーなぎよちゃんに対し、きんちゃんは貫禄のある胴回り、人間でいえばメタボリック症候群の予備軍かもしれない。そのためか、きんちゃんは病弱である。水替えを怠っている私が悪いといえばそれまでであるが、だいぶ水の緑色が濃くなってきたなと思ったら、きんちゃんがお腹に白いできものをこしらえてしんどそうな泳ぎ方をしていて、あわてて食塩浴をさせたりする。
 そんなきんちゃんなのだが、ある時、何を思ったのか、金魚鉢の外へ跳ね出してしまったことがあった。
 金魚鉢の向こうで、ときどきなにやら、ぱた、というかすかな音が聞こえてくるように思ったけど、取り立てて気にも留めずにいた。あとからわかったことだけれど、それは、床の上に横たわった瀕死のきんちゃんが、失われていく力を振り絞って跳ねようとする、弱々しい音だったのだった。
 しばらくすると、みゆちゃんがどこからかやってきて、しきりに金魚鉢のうしろを気にし出した。くんくん首を突っ込んで、明らかに何かを探しているような様子なので、何がいるのだろうとみゆちゃんの背中越しに覗いてみたところ、目に入ってきたのは、鮮やかな赤いからだも色褪せて、口をぱくぱくさせて喘いでいる、哀れなきんちゃんの姿だった。
 吃驚して、みゆちゃんを押さえつけながらきんちゃんを拾い上げると、すぐに水に戻してやった。
きんちゃんがしっかりとした泳ぎで水の中にもぐって行くのを見てほっとしたけど、みゆちゃんが見つけてくれなければ、誰も気がつかないまま、死んでいたかもしれない。みゆちゃん、教えてくれてありがとうと、迷惑顔のみゆちゃんを捕まえて、頭をごしごしとなでまわした。
もっとも、みゆちゃんは、なぜほめられるのか、きっとわかっていないに違いない。きんちゃんは二重の意味で絶体絶命だったのである。
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