福岡伸一「生物と無生物のあいだ」

 生命科学を一般向けに書いた本は何冊か読んだけれど、わかりやすいものはあっても、この「生物と無生物のあいだ」ほど、面白いものはなかった。
 特に前半は、DNAの二重らせん構造を発見したワトソンやクリックをはじめ、著名な分子生物学者たちがいかに生命の本質に近づいていったかということが、巧みなストーリー展開で紹介されており、学校で生物を少しかじったため、ある程度の内容はすでに知っていたものの、それにもかかわらず読み物として面白かったし、なにより生命科学という学問の面白さにわくわくした。
 後半は、著者自身の研究についてであり、そのバックグラウンドを説明するあたりが、一般読者にはやや退屈だと思われるけれど、本の終わりに向け、ライバル研究者との競争や焦燥感、意外な結末など、それなりに興味深かった。
著者は、分子生物学者として生命の謎に迫る一方で、生命という驚愕すべき存在に対する敬虔さを持ち続けており、とても奥ゆかしい印象を受けたが、一つ残念なのは、竹内久美子氏の誤訳を指摘しているくだりで、それがために、奥ゆかしいイメージが台無しになっている。私は竹内久美子氏のファンでもなんでもないけれど、大の大人に対して、いちいち英文解釈を垂れたりするのは、あまり品がよい行為とは思えない。
 全体として面白い本だけれど、この「生物と無生物のあいだ」というタイトルは、本編にはあまりそぐわない感じがする。上手くつけたと思うが、このタイトルが人の目をひいて、本書のベストセラーに一役買っていることは否めないだろうから、ちょっとずるいな、という気がしないでもない…

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