からかい猫

 子供というのは、大人に比べて動きが予測不能だから、車の運転時などは特に気をつけないといけないけれど、これは猫にとっても同じで、一般に、猫は子供を警戒する傾向にあるようである。
 みゆちゃんはもうずっと息子と一緒にいるから、息子に擦り寄っていったり、一緒に遊んだりしているけれど、それでも息子が手押し車なんかを持ち出してくると、轢かれてはかなわんと、椅子の上や階段の上にすばやく退避する。またどんなに息子になれていても、やっぱり子供一般になれたわけではなくて、友達の子供が遊びに来たときなどは、早々に二階へ非難する。
 実家の猫たちは、息子に対しまだ完全に心を許したわけではないから、息子が歓声を上げて大好きなにゃんこに駆け寄ろうとしたら、蜘蛛の子を散らすように、皆どこかへ逃げてしまう。
 中でもちゃめは特に息子が苦手で、息子との距離が少しでも縮まろうものなら、すぐにこそこそと姿を隠していた。ちゃめ専属のはずの父が孫の相手をしているのも、ちゃめにとっては心配事かもしれない。
 そのちゃめだが、近ごろでは少し様子が変わってきた。この小さな人間が危険な存在ではないとわかったのか、ときどき、からかうような素振りを見せる。息子が近寄ろうとすると、全速力で走って逃げて行くのだが、以前ならそのままどこかへいってしまっていたのが、また挑発するように駆け足で戻ってきて、息子の横をびゅうんと走り抜けたりする。ちょっと尻尾を立ててみたり、背中を丸く持ち上げてみたり、明らかに「鬼さんこちら」のポーズなのだ。息子はまだ鬼ごっこの醍醐味がよくわからないようなので、そのあたり、ちゃめの方がうわてである。
 ちゃめと同じトラ猫のネロも、人をからかう。実家の階段は、七割がた上ったところで踊り場になって、そこからちょうど反対向きに残りの段が続くのだけれど、父が下から階段を上って行くと、ふいに、誰かに頭をぽんと叩かれた。驚いて顔を上げると、二階へ走り去って行くトラ模様が見えた。階段の上の部分で様子をうかがっていたネロが、柵のあいだから手を出して、上ってくる父の頭をちょいと叩いて、逃げていったのである。
 この話を聞いて、ネロという猫は、なかなかユーモアを解する猫であるなあと思う次第である。
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