西郷隆盛がいま我々に語りかける「最後の武士」の名言
09月17日 07:00 NEWSポストセブン
いまなお多くの日本人を魅了してやまない西郷隆盛が、西南戦争を起こしてから140年になる。西郷は後世、書簡や漢詩は残っているものの一冊の著書も遺していなかった。しかし西郷の言葉を伝える「遺訓」の中の言葉は、現代に生きるわれわれに日本人の精神を示してくれている。その名言を紹介しよう。
●名言その1
「自分を足れりとせざるより、下々の言も聴き入るるもの也」
(現代語訳)
“私は、まだまだ働きが足りない”と考えていればこそ、国民からの訴えも、素直に聞き入れられる。
【解説】
「忠告を聞くこと」の大切さが語られています。このあと、“うぬぼれている人に向かって立派な人が忠告すると、すぐに怒り出すので、その人の周りからは、立派な人が離れていき、やがて忠告してくれる人は誰もいなくなってしまう”と続きます。 ?
●名言その2
「命もいらず、名もいらず、官位も金もいらぬ人は、仕抹に困るもの也。此の仕抹に困る人ならでは、艱難を共にして 国家の大業は 成し得られぬなり」
(現代語訳)
自分の命、名誉、役職や肩書、お金もいらない、そういう人はまわりの人から見れば、さぞや扱いにくいことでしょう。けれども、そういう人とでなければ、苦難をともにして国家の命運にかかわるような大きな仕事を成しとげることはできません。
【解説】
『南洲翁遺訓』のなかでは、もっとも広く知られている言葉です。やはり昔の「武士」は、現代人の想像を超えています。大切なことは、これは“命を粗末にせよ”という意味ではないということです。自分の生命以上の“尊いもの”を守るためなら「命もいらず」という覚悟ができる、そういう境地を語ったものでしょう。
●名言その3
「開明に進まんとならば、 先ず我国の本体を居え、 風教を張り、然して後徐かに 彼の長所を斟酌するものぞ」
(現代語訳)
これから、わが国も世界の先進国を目指そうというのなら、まずは、わが国の“わが国らしいところ”を、しっかりと固め、国民の道徳心を高めて、そのあと外国のよいところを、ゆっくりと取り入れていくことです。
【解説】
“わが国らしいところ”とは、突き詰めれば「国体」の一点にしぼられます。西郷さんは、まずはそれに基づいて政治や社会の体制を確立し、その上で「国民の道徳心」を高め、そのあと欧米の文物をゆっくりと取り入れればよい、と言うのです。そうせず性急に「外国のマネ」に走ったら……、西郷さんは「国ごと外国に支配されて、生きていかなければならなくなる」と警告しています。 ?
●名言その4
「正道を踏み、国を以て斃るるの精神無くば、外国交際は全かる可からず」
(現代語訳)
正しい外交を進め、それを真っ直ぐに貫き、“その結果、国ごと斃れることになってもよい”という覚悟を持ち続けることです。そうでなければ、外交を立派になしとげることなど、とてもできません。
【解説】
ぎりぎりの交渉で、こっそり逃げ道を用意していると、相手に手の内を見透かされ妥協を引き出せず、結果的に最悪の事態になるでしょう。“最悪の事態も辞さない”という覚悟で交渉に臨む時、はじめて相手も真剣に交渉に応じ、やがては、それが最善の結果をもたらすのです。そのような交渉を、西郷さんは生涯に何度も成功させています。
解説■松浦光修(皇學館大学文学部教授)
※SAPIO2017年10月号