プロ野球「トライアウト」一発逆転勝負の本質 新ルールは挑戦者にどんな影響を与えたのか
(前略)
一方で、最初から1-1というカウントでスタートする場合、経験則だが、圧倒的に投手が有利と感じた。打者は1球でもストライクを取られると、たちまち追い込まれてしまう。1球目にファールでも打とうものなら、すでにカウントは1-2(1ボール-2ストライク)。投手からすれば、一番いい変化球をあと2球ボールにできる。カウント3-2(3ボール-2ストライク)になるまで、2球の猶予ができる。
私はトライアウトをキャッチャーとしても経験したことがあるので、この1-1から始まることに関して非常に配球しやすかったという感想がある。結論として、何が言いたいかというと、カウント0-0から始まるということは、非常にフェアなルールになったということである。
そして、トライアウトを語るうえで、キャッチャーの目線から見える風景をぜひ伝えておきたい。
まず、私のときは投手が打者4人と対戦して代わるというルールであった(今年は投手1人が3人と対戦)。これは、かなり忙しく投手が交代する。つまり、サイン合わせをしている時間がほとんどない。
見たことも、対戦したこともない投手と、マウンドでサインを合わせて、いきなり本番を迎える。スライダーがどういう軌道で曲がるのか、フォークがどこまで落ちるのか、全くわからない。
力と力が純粋にぶつかり合う美しい勝負
それに、投手にとっても、打者にとっても、これが野球人生最後の”勝負”になる可能性が高い。カウントが1-1から始まる性質上、変化球中心に配球を組み立てれば、かなりの確率で抑えられる。しかし、それで投手が納得するだろうか。
「悔いの残らない方を選ぶ」
これに尽きる。アウトコースにストレートと、いちばん良い(であろう)変化球。その2つのサインだけを出し、あとはボールを止めるだけ(それはまるでゴールキーパーのように)。非常に特殊だが、その分、余計な駆け引きはいっさいなく、力と力が純粋にぶつかり合うというなんとも美しい勝負の世界があった。
そう、勝負に挑む男の姿は美しい。それはプロ野球の醍醐味のひとつといえるだろう。
(文:高森 勇旗/元横浜DeNAベイスターズ選手)