空 気
まど みちお
ぼくの 胸の中に
いま 入ってきたのは
いままで ママの胸の中にいた空気
そしてぼくが いま吐いた空気は
もう パパの胸の中に 入っていく
同じ家に 住んでおれば
いや 同じ国に住んでおれば
いやいや 同じ地球に住んでおれば
いつかは
同じ空気が 入れかわるのだ
ありとあらゆる 生き物の胸の中を
きのう 庭のアリの胸の中にいた空気が
いま 妹の胸の中に 入っていく
空気はびっくりぎょうてんしているか?
なんの 同じ空気が ついこの間は
南氷洋の
クジラの胸の中に いたのだ
5月
ぼくの心が いま
すきとおりそうに 清々しいのは
見わたす青葉たちの 吐く空気が
ぼくらに入り
ぼくらを内側から
緑にそめあげてくれているのだ
一つの体を めぐる
血の せせらぎのように
胸から 胸へ
一つの地球をめぐる 空気のせせらぎ!
それは うたっているのか
忘れないで 忘れないで…と
すべての生き物が兄弟であることを!
◇出典:銀河社刊
まど・みちお詩集
「宇宙のうた」より
※ブログに詩を載せることが、著作権の侵害にあたるのかどうか、迷いながら詩を書きだしました。出典先を書くことで、許されるのであればと考え、今後は出典を明示することにしました。
5月になると、浮かんでくるのがこの詩の4連目の一節です。
…
5月
ぼくの心が いま
すきとおりそうに 清々しいのは
見わたす青葉たちの 吐く空気が
ぼくらに入り
ぼくらを内側から
緑にそめあげてくれているのだ
…
新緑の中に入ると、自分の内側まで緑にそめあげられた印象があります。また、空気と共に、新緑が発散する生き生きとした生命力まで内側にあふれてくるようです。
地球上のすべての生き物に分け隔てなく降り注ぐ太陽のように、空気もあらゆる生き物の外から内へと胸から胸へと通り抜けていく。
この詩を読むと、自分の胸の中を通り抜ける空気を通して、すべての生き物と地球上でつながっていること(すべての生き物が兄弟であること)を実感してきます。
5月の新緑と空気を内側に胸いっぱい取り込みながら、地球に生きる者として、さわやかに今月も頑張っていきたいものです。