あぽいち

温泉とヨガ、たまに心臓外科医

心膜による僧帽弁の再建

2012-11-30 21:04:12 | Weblog
先日の症例は十数年前のMVP後の再発症例でした。おそらくP2-P3の逸脱症例に対するplicationが施行されていたと思われますが、術前のTEEではほぼ同部位からの逆流とのことで、P2は短縮、P3は腱策が断裂している所見でした。高齢の方でしたので生体弁による弁置換で何ら問題ない症例ではありましたが、前回の弁形成で弁輪のリングが使用されていないということもありまして、形成も可能かなということで、手術に向かいました。それなりの癒着で剥離に1時間程度、3度目はないと考えて、あえて両側開胸して不必要な癒着剥離はせずに、横隔膜面より入って、右開胸して、右心房の弱い部分は心膜を残して胸腔経由でIVC,SVC,Aorta、PVを剥離して、左側も右室全面から左室にかけては心膜を残したまま左胸腔経由で心尖部のみ剥離して心肺を確立しました。
TAPも同時に行う予定でしたので、心膜のついた右房から切開していき、経中隔アプローチで左房を展開したところ、ほぼTEEの所見通りP2の短縮とP3の逸脱であり、P2のaugmentationとP3の人工腱索でも行けたのでしょうが、ここはシンプルにとのことで、P2-3全体を心膜で再建することに、腱索から弁尖までを一枚の扇状の心膜で、元の弁尖はそのまま残して、その上にかぶせるように後乳頭筋から弁輪にかけて固定,P1とPCにも固定して、新たな弁尖を作りました。水テストで少しリークが残りましたが、形は悪くなく、問題なし。
遮断解除後は一筋のリークがあり、むむむ、、、リポンプか?と思いましたが、ここは冷静になり、よくよく場所を確認すると水テストで問題なかったP3付近からのリークでしたので、これは心膜が硬いためで、しっかり圧がかかれば、パンっと張ってくれると判断してそのままポンプを離脱してみたところ、左室の動きが良くなるにつれて、最初は起きてこなかった後尖の心膜が徐々に見えてきて、正常の弁のごとくきれいに張ってきてリークはなくなりました。三角切除や四角切除をしてリングを入れてしまうと、どうしても後尖の動きがなくなり、いわゆる1枚弁化されてしまうことが多く、それでもさして問題はないとされていますが、やはりしっかり後尖が動いているのはいいものです。
弁が短縮している症例や、IEで弁がなくなってしまった症例、また、弁を切りすぎてカーテンエフェクトになって困ってしまった症例のリカバリーに、1つののオプションとして、心膜のaugmentationをするよりも、シンプルで良いかと思います。