核なき世界へ努力
被爆体験 証言に敬意
2024年10月12日 日本経済新聞朝刊「春秋」より
爆圧で叩きつけられた若者は腸が出て、すさまじいうめき声を上げた。なまじ生きのびた人は苦痛に自分の肉を引きちぎった。
「原爆は即死が一番いい」。長崎で被爆した作家の林京子さんがつづった「祭りの場」の、絶望の一節だ。2発の原爆は地上の地獄を生んだ。
もっとも終戦後は復興の名のもと、被爆者が陰に隠されることも多かった。そんな流れを大きく転換させたのが、1956年結成の日本原水爆被害者団体協議会(日本被団協)である。
「みじめなこの姿を見てください」。結成の舞台となった原水爆禁止世界大会で訴えた下半身不随の姿は、世界に衝撃を与えた。
以来68年。人類は自分たちの犠牲と苦難をまたと繰り返してはならぬーー。そう訴え続けてきた日本被団協にきのう、ノーベル平和賞が贈られることが決まった。「本当か」「信じられん」。驚きの声とともに被爆者たちの頬を流れ落ちた涙は、歓喜の一方で核軍縮が停滞する現状への苦悩をふくんでいるようにもみえた。