駅前糸脈

町医者をしながら世の中最前線の動きを感知、駅前から所見を発信。

間違いは導かれたように

2008年08月06日 | 医療
 帯状疱疹という病気がある。これは赤みを帯びた水疱が神経分布に沿って身体の片側に出来てくる皮膚疾患でチクチクと痛むのが特徴である。神経根に潜伏していた水疱瘡ウイルスが活性化されて起きてくる病気で、時々治った後も痛みが残り難渋することがある。
 当院でも年に数例経験する。皮疹を診れば一目瞭然の病気で、多くは皮疹の出る数日前からチクチクした不快感が先行する。この時点で予測出来ると早期に特効薬を投与でき、すっきり治せることが多い。もう何十例も診ているので、話を聞いた途端鑑別疾患として思い浮かび見逃すことはないのだが、先日は見逃してしまった。
 高血圧で通院されている五十代の女性が、診察も終わり腰を浮かすところで、腰痛の湿布でかぶれたので塗り薬を欲しいと言われた。ここでもう一度座らせどれどれと患部をはだけさせて診ればよかったのだが、まあ湿布ならかぶれだろうと、診察するのを躊躇をしてしまい、「ああ、そお」と軟膏を出してしまった。翌日なんだかひどくなったと受診されたので、裸になって貰うと左脇腹から腰にかけて憎々しげな水疱が並んでいた。「痛くないですか」。「そおね、なんだかちくちくするわ」。「これはかぶれじゃないんです。帯状疱疹という病気です」。
 いつも研修医に口を酸っぱくして、皮膚は脱がせて目で見るように、患者の言うことを鵜呑みにしないように注意しているのに、自分がドジを踏んでしまった。現実には失敗というほどではないかもしれないが、経験があるのにと大いに反省した。
 しばしば指摘されることだ、即、診察や診療時間の終わり際に間違いが起こりやすい、患者の言うことを真に受けてはいけない。これらをもう一度肝に銘じなければと思った。今回は大事に至らなかったが、間違いはうっかり、思いこみ、不注意そして躊躇などの重なりで起きる。躊躇というのは微妙なのだが、腰を浮かした人をもう一度診察するのをためらってしまったのだ。情けないと言えば情けないのだが、相手が全く予期していないことを言いにくく手間も取るので大丈夫だろうと二の足を踏んだのだ。
 間違いというのは仕掛けられたように符合したような積み重ねで起きる。注意しすぎることはないなあ。
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情報料金をどう決める

2008年08月06日 | 診療
 囲碁将棋のプロは私が何分もかかる5手詰めの詰め物を一目で解いてしまう。それがプロというもので、たかだか5手詰めで唸っていては、失礼しました浪曲の先生でしたか、と言われてしまう。
 碁や将棋の素養があれば、いとも簡単に解くその早さを凄いと感心するのだが、世の中は内容を評価できる人ばかりでなく、さっさと手早く仕事を片づけると、そんなに簡単ならお支払いは2割引でよいでしょうと言い出す人達が出てくる。特に形に表れない情報や判断は軽く見られる傾向がある。
 今は昔、兄に聞いた話。父の代わりに往診に行くとなんだ若先生かと軽く扱われるので行くのを渋っていたら、父にいいか、まずきちんと診察をしてゆっくり手を洗って、それから見立てを言うようにしなさいと伝授されたそうだ。要するにいくらか勿体を付けるわけだ。何だかなあと思うが、どうも世の中の評価にはそうした側面がつきまとう。
 重さを量ったり手触りを確かめたりできない情報や判断は素人には評価が難しく簡単そうに提供されると、廉価に見積もられやすい。もっと極端には評価を停止し、一律料金扱いになったりする。価格は需要と供給で決まるように習ったが、診察料金はどんな医師が診ても同一料金に設定されている。
 去年医師免許を取った医師が診ても、20年勉強続け十分な経験を積んだ医師が診ても診察料金は同じなのだ。実際には新米医師の方が検査が多く診察時間も長いので、診察料以外の料金がかかり高くなるのだが。
 どうしてこうなっているかというと、一番の理由は診察技術といった目に見えないものの評価が難しいからだ。
 それは千歩譲るとして、医師の側から言わせて貰えばどんな患者さんも同じ診察料なのには違和感がある。不潔で物わかりが悪くて攻撃的で何倍も時間が掛かる患者さんと、たいしたこともしていないのに丁寧にお礼を言われ気持ちが和む患者さんとが、どうして同じ料金なのか。理解しがたい。
 
 
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