人間は運命に翻弄される。十分長く生きたし、仕事柄酷い辛い理不尽を目の当たりにしてきた。これは実感だ。歴史は織りなす錦のように流れる大河のように語られるけれども、一人一人の人間の一生は風に吹かれる木の葉のように、流水に転ぶ小石のように心許なく、抗うことのできない力に翻弄される。
人間は考える葦であるとパスカルは言った。本当にそうだと思うのだが、考えることの苦手な人も居るので、そういう人も人は運命というものに翻弄されると知って自覚していると言い直すことができるだろう。
果たしてそれをいかに受け止めて生きてゆくか。神は細部に宿る、玄妙で不思議そして心に解れる言明だ。それは村上春樹のいう小確幸(小さいが確かな幸)に連なっているように思う。そうだ、そうして人間は生きているのだと、町医者は診察室で気付く。