駅前糸脈

町医者をしながら世の中最前線の動きを感知、駅前から所見を発信。

森本あんりの「反知性主義」

2016年05月07日 | 

   

 飛行機に乗ると時間があるので行きは「反知性主義」を読んだ。

 反知性主義と言う言葉は、元々は現代アメリカ社会を分析するために使われてきた言葉でその本来の意味内容は現在日本で人口に膾炙する反知性主義とは異なっている。そのことを森本あんり氏が丁寧に分かり易く歴史的事実に沿って説明解説された本が「反知性主義」新潮選書である。

 著者はあんりというお名前だが男性で国際基督教大学教授で牧師さんだ。これは故あってのことで、キリスト教とキリスト教史を詳しく知らないとアメリカで起きた反知性主義を理解解説することは出来ないからだ。

 アメリカの成り立ちに関する平均的な日本人の知識は宗教的な側面が抜け落ちていると言って良いほど浅いので、本書を読むと目から鱗が落ちると思う。簡単には説明できないが、アメリカの反知性主義はハーバード、イエール、プリンストンなどの有名大学を出てキリスト教の教義解釈やラテン語を知らなくても、誰でも回心し信仰を得ることができるという平等観に基づいて出てきたもので、知性そのものを否定無視することを主眼にしたものではない。こうした運動の理解はキリスト教の宗派に対する歴史的知識がないと難しく、森本氏の御本を読んで戴くのがよいと思う。

 今日本で指摘され問題になっている反知性主義には宗教的な基盤は乏しく、論理性や実証性や客観性を軽んじ、自分と仲間の都合を優先した見解や判断を是とする態度とでもいうべきもののようだ。そうしたものが受ける背景には知的な発言や振る舞いをする者への嫌悪感(彼等が不当に恵まれていると感じるため?)、有り体に言えばそねみ、ねたみ、うらみもあるようだ。

 反知性主義と眉を顰める前に森本さんの「反知性主義」をお読み戴くことをお勧めしたい。

 まあそれでもしかし、ちょっと飛躍するが、扇動やポピュリズムが力を持ち得る政治の恐ろしさを感じる。

コメント
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