風薫る五月、本当に気持ちの良い日が続いている。交通渋滞に懲りて、近場で過ごす人も多いようで、街の食堂やレストランが混雑している。
五年ほど前から、街外れの若い夫婦でやっているカジュアルフレンチの店を贔屓にしている。実際には三十くらいなのだろうが、学生の雰囲気の抜けないショートカットの奥さんがサービスを担当し、クオーターのような顔立ちで一寸縮れ毛のご主人が料理を作っている。いつも工夫を凝らしたお値打ちの料理を提供しているのだが、場所が良くないのか繁盛とまでは行かない。
昨日昼食に寄ったら、ほぼ満席で最後のテーブルに案内された。マダムは忙しそうだが疲れた顔も見せず、笑顔でメニューを置いていった。贔屓の店が混んでいると嬉しい。こうした機会に客が付いて繁盛するといいと応援団気分になった。
夫婦二人きりになって外食する機会が増えた。手ごろな価格の旨いものが好きで、二十年近く掛けて何軒も馴染みの店が出来た。馴染みの店を作るのは簡単なようで難しい。というのは十年以上続く食堂レストランはさほど多くない。結構、閉めたりオーナーが変わったりする。それと大きい店だと店主が客席に顔を見せないことも多く、フロアの女性は数年で変わることが多い。月一回ほど行く蕎麦屋は大振りの店で二十歳前後の女の子二人(忙しい時は調理場の若い衆が手伝う)が注文を取りに来るのだが、四、五年すると嫁に行くのか交代してしまう。可愛い方が先のことが多いが、気立ての良いのもちゃんと行く先が見つかるようだ。
そうしたわけで比較的小体なオーナー店で、店主が時々顔を出す店が馴染みになりやすい。唯、値段が手頃で美味しくてもマダムに癖があると波長が合わないようで、足が遠のいてしまう。
そうして当院も数多い患者さんの馴染みの医院になれたのだが、残念ながらいつまでもとは行かない、「先生はお元気で」と言って頂けるがあと何年出来るだろう。