駅前糸脈

町医者をしながら世の中最前線の動きを感知、駅前から所見を発信。

がん患者さんの看取り依頼

2017年05月23日 | 医療

               

 癌患者さんの在宅看取りを希望される家族がある。当院にも時々病院から在宅での看取り依頼がある。以前よりは少し依頼が減っているが、それは二年ほど前に一度お断りした症例があったことや在宅診療専門の開業医ができてきたことと関係があるのだろうと推測している。実は少々というかかなり草臥れてきているので、減ったのはありがたい。というのは癌末期の患者さんは、脳血管障害や重症認知症の往診患者に比べて、往診医の心身の負担が大きいからだ。

 心の負担というのは往診で初めて診る末期癌の患者さんでは患者家族との良好なコミュニケーションが簡単には成立しないので、大過なく看取ることができても不全感が残るからだ。勿論、何か月も在宅で過ごせれば事情も変わるが、たいていは十日ほどで亡くなるので、死亡診断書を書くための医者のような気がすることもあり、やるせなく感じることも多い。

 今は介護認定制度があり訪問看護師の利用ができるようになっているので、二十年前に比べれば在宅での看取りに一つの形ができ、随分スムースに段取りが整うようになっている。しかるに、在宅での家族の介護力は核家族化が進んだせいか人数的にも個人的にも低下してきている。そして今でも家族の介護力が一番重要なのには変わりがない。

 介護力は家族の思い、理解そして実践力の総合なのだが、これがどの程度かということが非常に重要なのだ。実践力というのは手を出すことで、どれくらい主介護者、しばしばお嫁さん、の手が出るかということだ。手が出るというのは畢竟触るということで、この辺りに家族の歴史?が現れる。世の中には本当に頭の下がる献身的なお嫁さんも居られるし、ちょっと情けないんじゃないのという息子も居る。そうした全てを含めその人がその人を死ぬという臨終が訪れる。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする