白洲次郎&白洲正子というビッグカップルのお嬢さん、牧山桂子(かつらこ)さんが、ご両親とのあれこれを綴られた『次郎と正子』を先日読了した。
これが予想以上に面白かった。
タイトルからしてご自分のご両親を名前で呼び捨てである。一見とてもドライでクールで「もうちょっと普通の親らしかったらよかったのに」という恨めしさもあったかもしれない。
そしてご自分でもそう思われているかのような筆致なのだが、ご両親は、彼らなりの愛情を注がれていたのだということが、読了して、しみじみと心に沁みていたりする。一般的な親の愛情のかけ方とは、全くベクトルが違うので「あれあれ?」だったりするのだけど、質も量もたっぷりだということは、シャイな桂子さんは、クールでドライな筆致を保ちつつ認めていらっしゃるのだ。かなりの「あれあれ?」なんだけどね(笑)
とともに「次郎と正子」というご夫婦の、無類の面白さが描かれていて、桂子さんの軽妙で上品でドライな独白で一層際立ってくる。顔を合わせればお互いに負けず嫌いでプライドの高い二人は口論が絶えず、それは傍目には迷惑だけど、二人にとってはレクリエーションみたいなものだとか、正子さんがヨーロッパ旅行に出かけてしまうと、普段のガミガミ亭主ぶりはどこへやら、彼女の帰国する日に赤丸を付け、彼女の便りを心待ちにする次郎さんとか、なんだか可愛らしいのだ。
そんなケンカばかりの二人が、晩年には仲良く軽井沢に出かけ、機嫌良く帰ってくるのを珍しいことだと思う桂子さんだが、二人には人生の残り時間が少ないことが、しみじみと身を以てわかっていたのだろう。
子どもより自分優先の自己チューな正子さんをみる桂子さんの目線は「やれやれ目線」である。ほとんど手に負えない子どもを、半ば呆れながら見る母親目線なのだ。逆転母娘なのだ。
桂子さんの独特のユーモアセンスにも感心。
入れ墨の取材にいって、すっかり感激した正子さんは「私も入れ墨をいれようかしら」ととんでもないことを言い出す。凝り性の彼女なら、全身入れ墨というのも、やりかねない。という内容に続くのは、こんな文章。
それをもし見たら父が浮かべるであろう驚愕の表情と、よく温泉などで見かける「入れ墨の方お断り」という看板が、同時に私の頭の中に浮かびました。
やめときなさいよ、と言う私の言葉なぞどこ吹く風で、図柄は天女だ龍だなどと言い出す始末です。一計を案じた私が「内股にバラの花と『次郎いのち』と入れなさいよ」と提案すると、彼女の中でなにかが弾けたような顔をして、二度と入れ墨の話をしなくなりました。
これが予想以上に面白かった。
タイトルからしてご自分のご両親を名前で呼び捨てである。一見とてもドライでクールで「もうちょっと普通の親らしかったらよかったのに」という恨めしさもあったかもしれない。
そしてご自分でもそう思われているかのような筆致なのだが、ご両親は、彼らなりの愛情を注がれていたのだということが、読了して、しみじみと心に沁みていたりする。一般的な親の愛情のかけ方とは、全くベクトルが違うので「あれあれ?」だったりするのだけど、質も量もたっぷりだということは、シャイな桂子さんは、クールでドライな筆致を保ちつつ認めていらっしゃるのだ。かなりの「あれあれ?」なんだけどね(笑)
とともに「次郎と正子」というご夫婦の、無類の面白さが描かれていて、桂子さんの軽妙で上品でドライな独白で一層際立ってくる。顔を合わせればお互いに負けず嫌いでプライドの高い二人は口論が絶えず、それは傍目には迷惑だけど、二人にとってはレクリエーションみたいなものだとか、正子さんがヨーロッパ旅行に出かけてしまうと、普段のガミガミ亭主ぶりはどこへやら、彼女の帰国する日に赤丸を付け、彼女の便りを心待ちにする次郎さんとか、なんだか可愛らしいのだ。
そんなケンカばかりの二人が、晩年には仲良く軽井沢に出かけ、機嫌良く帰ってくるのを珍しいことだと思う桂子さんだが、二人には人生の残り時間が少ないことが、しみじみと身を以てわかっていたのだろう。
子どもより自分優先の自己チューな正子さんをみる桂子さんの目線は「やれやれ目線」である。ほとんど手に負えない子どもを、半ば呆れながら見る母親目線なのだ。逆転母娘なのだ。
桂子さんの独特のユーモアセンスにも感心。
入れ墨の取材にいって、すっかり感激した正子さんは「私も入れ墨をいれようかしら」ととんでもないことを言い出す。凝り性の彼女なら、全身入れ墨というのも、やりかねない。という内容に続くのは、こんな文章。
それをもし見たら父が浮かべるであろう驚愕の表情と、よく温泉などで見かける「入れ墨の方お断り」という看板が、同時に私の頭の中に浮かびました。
やめときなさいよ、と言う私の言葉なぞどこ吹く風で、図柄は天女だ龍だなどと言い出す始末です。一計を案じた私が「内股にバラの花と『次郎いのち』と入れなさいよ」と提案すると、彼女の中でなにかが弾けたような顔をして、二度と入れ墨の話をしなくなりました。