教団「二次元愛」

リアルワールドに見切りをつけ、二次元に生きる男の生き様 (ニコニコでは「てとろでP」)

SFフリークのための半導体プロセスガイド

2009-06-03 00:00:22 | 科学
SFとは、略語の意味するように科学にもとづいた空想作品のことをさす。
ハードSFとは、その科学的考察や科学的論理を物語や設定の主眼においた作品をさす。

そしてSFフリークとは、そのハードSFの設定や展開にシビれて熱くなれる人たちのことをさす。
ねえちゃんの足よりガンダムの足のほうが美しいと感じるなら、あなたはきっとSFフリークだ。

SFフリークは科学的なバックグラウンドをもつ物語が大好きだ。
かくいうわたしもSFは大好きだ。
幼いころにボイジャーの宇宙探査にシビれ、そして理系以外の選択肢を失ったSFフリークだ。
そこで今回はそんなわたしが、SFフリークが好きそうなのにもかかわらず意外に関係者以外には興味をもたれていない半導体プロセスについて、ちょいとだけSFフリークの視点から進化の軌跡を書いてみたいと思う。
(ちなみにわたしは半導体プロセスの専門家ではないけど)



LSI(大規模集積回路)という部品がある。
これは、トランジスタを10億個とか同時につくり、しかもそいつら10億個の間の配線も同時につくってしまうスーパー部品のことをさす。

こいつらは、透明部分と不透明部分に塗りわけたマスクをおいて、その上から写真を現像するように光をあてて配線を描くという方法で製造する。
はじめのころは、ホントに写真屋さんの現像装置みたいなので作っていたと思う。
最初期はそんなので良かった。
トランジスタを何個かいっしょに作るという程度で良かったから。

ところが!
もっとたくさんトランジスタを載せろというヤツが現れた。
たくさん載せられれば、それだけもっとすごい性能のLSIができるからだ。

どうするか。
もっと細かい線を描いたマスクを用意すればいい。
そうは言っても、そんなので何とかするにも限度がある。
技術屋は考えた。
技術屋のうちの誰かがうまいことを考えた。
ヤツはこう考えた。
レンズを使って、でっかいマスクに当てた光を小さいエリアに縮小コピーしてやればいい。
これによって、もっとたくさんトランジスタを載せることができるようになった。
かれらはこれを縮小投影型露光と呼ぶようになった。

ところが!
もっとたくさんトランジスタを載せろというヤツが現れた。

どうするか。
これ以上は細かい線を描いたマスクを用意して縮小コピーしただけでは対応できなくなっていた。
なぜなら、光の波長以上に細かい線を描くことはできないからだ。
技術屋は考えた。
もっと波長の短い光を用意するしか方法がなさそうだと、だれもが思った。
技術屋は紫外線を出すランプを用意した。
これだけではダメだった。
ふつうにレンズに使っていた光学ガラスは紫外線を通さなかったのだ。
技術屋は紫外線も通す石英ガラスをなんとか使いこなし、新しいレンズを作ることに成功した。
これによって、もっとたくさんトランジスタを載せることができるようになった。
かれらはこれをArFエキシマレーザと呼ぶようになった。

ところが!
もっとたくさんトランジスタを載せろというヤツが現れた。

どうするか。
技術屋はもっと波長の短い光を用意して何とかしようとした。
だが、うまくいかなかった。
高寿命で高出力の光源をつくれなかったし、透過率のいいレンズもつくれなかったし、マスクもイマイチだった。
しばらくは今の波長の光をつかって何とかするしか無さそうだった。
技術屋は考えた。
技術屋のうちの誰かがうまいことを考えた。
ヤツはこう考えた。
光の波長以上に細かい線を描くことはできないのは、その細かいパターンを通った光はすべてがまっすぐ進まずに回折してわきにそれるヤツが出るからだ。だったら、その細かいパターンの両脇のパターンを制御してやってそっから逆位相の光を通過させ、そいつで回折してわきにそれるヤツを打ち消し、トータルでファインなパターンを描けるようにすればいいじゃないか。
・・・と。
そしてもっとファインに描ける新しいマスクを用意した。
これによって、もっとたくさんトランジスタを載せることができるようになった。
かれらはこれを位相シフトマスクと呼ぶようになった。

ところが!
もっとたくさんトランジスタを載せろというヤツが現れた。

どうするか。
回折でダダ漏れしている光を全部打ち消そうったって、打ち消せるのにも限度がある。
何かほかの方法を考える必要があった。
技術屋は考えた。
技術屋のうちの誰かがうまいことを考えた。
ヤツはこう考えた。
1つのマスクで超ファインなパターンを超高密度で描こうとするからダメなんだ。たとえば1本おきに描いたマスクを2枚用意して、両方使って全部描けるようなマスクのペアにすればうまくいくはずだ。そうすれば、1つのマスクだけ見ればは隣の線までの間隔がすごく広がるから何とか描けるはずだ。
・・・と。
そして1つのマスクを2つに分けたマスクを用意した。
これによって、もっとたくさんトランジスタを載せることができるようになった。
かれらはこれをダブルパターニングと呼ぶようになった。

ところが!
もっとたくさんトランジスタを載せろというヤツが現れた。

マスクを分ければ分けるほど作るのに時間がかかるし、そうすると値段がどんどん高くなる。
2つに分けるくらいにしておかないと、いいかげんガマンならんような値段になってしまう。
それに、単に分けただけでどこまでもファインなものができるわけもない。
何かほかの方法を考える必要があった。
技術屋は考えた。
技術屋のうちの誰かがうまいことを考えた。
ヤツはこう考えた。
真空中(空気中でも同等)にレンズを置くからダメなんだ。レンズから下の全部の屈折率を上げてやればいい。だからレンズの下を水で埋めてしまえば、今のレンズでももっとファインに描けるはずだ。
・・・と。
そしてレンズから半導体までを水で埋めて露光する装置を作った。
これによって、もっとたくさんトランジスタを載せることができるようになった。
かれらはこれを液浸露光と呼ぶようになった。

ところが!
もっとたくさんトランジスタを載せろというヤツが現れた。

もっと屈折率が高いレンズを作ろうとした人もいた。
しかしうまくいっていない。
多くの人があきらめた。

やはり、もっと波長の短い光を使うしかないだろうと考えた人もいる。
ちょっとずつイイ感じにはなってきてはいるが、まだしばらく時間がかかりそうだ。
次に使うにしては間に合いそうにはない。

光を使うからだダメなんだと考えた人もいる。
この人たちは電子線ビームを使ってパターンを描く装置を作った。
たしかに超ファインなパターンを描くことができた。
この装置はビームをうつ向きを制御することで、好きなパターンを描くことができる。
マスクが無くても、超高額なマスク代を払わなくてもパターンを描ける。
しかし、1本づつ描くからベラボーに時間がかかる。
試作に使うにはすばらしいが、量産で使うには向いていない。
これもイマイチだ。

そして現在に至る。
この物語はまだエンディングを迎えてはいない。
今日も技術屋のみなさんは次なる開発に勤しんでいるのであった。



日本でやってる人たちというと例えば↓こんな感じ。(いっとくけどわたしはこの露光装置の関係者じゃないよ。)

http://web.canon.jp/technology/canon_tech/category/step.html
キャノン
http://www.ave.nikon.co.jp/pec_j/products/index.htm
ニコン
http://www.advantest.co.jp/products/F3000/index.shtml
アドバンテスト