本記事は「わたしの愛したマシンたち」というシリーズの第2弾である。
各話ごとに完結しているので前のは別に読まなくてもいいが、第1弾はエスプレッソマシンについて2009.06.19に記してある。
わたしにはお気に入りのヘッドフォンがある。
オーディオテクニカの木のヘッドフォン、その最初期モデルである。
ATH-W10VTG
http://www.audio-technica.co.jp/products/hp/ath-w10vtg.html
いまでこそオーディオテクニカはクソ高いヘッドフォンを出してるが、当時はせいぜい高くても1万円代のヘッドフォンしか出していなかった。
それもそのはず、世界に並みいる強豪ひしめく高級ヘッドフォン市場に、言っちゃあ悪いがただのAVアクセサリー屋のオーディオテクニカが太刀打ちできるとは到底思えなかったのだ。
それは当時のだれしもが思うところであろう。
1996年のことだった。
バブル後遺症がどうこうと言われていた時代、なぜかオーディオテクニカは勝負に出た。
高級ヘッドフォンへの参入である。
オーディオテクニカは誰しもが思いつきそうだが誰も製品化していなかったやりかたで参入した。
ヘッドフォンのハウジング(いわゆる外側)を木で作ったのである。
なぜ木が良いのか?
これはあくまでも私見だが・・・
ヘッドフォンやスピーカーの箱はなるべく理想剛体に近いほうが良い。
でなければ変な箱鳴りがしてしまうからだ。
とは言っても理想剛体に近いものというのもかなり難しい。
たとえば10mm厚のステンレスであれば理想剛体に等しいだろう。
変な箱鳴りはほぼカンペキに抑えられる。
ところが、そんなヘッドフォンはあまりにも重たすぎて首にはかけられない。
ではどうすれば良いか?
そこそこの重さでそこそこの剛性をもつ材質で作るしかない。
特にヘッドフォンはそうである。
だから箱鳴りはカンペキには抑えられない。
ならば、響いたとしても心地の良い響きの出る材質で作るべきだ。
プラスチックなど論外だ。
もちろん木で作るのが望ましいし、できることなら無垢材にしたい。
わたしはそう思う。
それをオーディオテクニカがやったのだ。
では、なぜ他のメーカーがやらなかったのか?
木材加工に詳しくないこともあって、わたしにはそれはわからない。。
無垢材で作るとすると、材料調達の問題や経年変化まで考慮した品質管理の問題など、ふつうの電気屋では到底退治しがたい難しい課題が多いだろうと思う。
そして、オーディオテクニカ的には満を持して木のヘッドフォンが発売された。
これは驚くほど音が良かった。
しかし、世間の評判はビミョーだった。
発売後しばらくは特に良いとも悪いとも言われず、イマイチ話題にならなかった。
わたしはこのヘッドフォンを含め、50をゆうに超える数のヘッドフォンを視聴し、最も音の良いものを探し続けた。
まだカネ出しても良いと思える程度のものが2つ。
「これは欲しい!」と惚れる音の出すものが2つ。
あれだけ聞いてそのくらいの選択肢しか残らなかった。
正確にいうと、「音が良い」と表現するのは不適切な気がする。
有象無象のあらゆる音色を奏でるヘッドフォンのなかにして、そのなかでわたしの心の奥底にとどき、魂を揺さぶる音質を出せるもの。
そう言ったほうが近い。
良いか悪いかという客観的判断ではなく、魂がそれを理解するか、そういう判断だ。
そして魂を揺さぶるほどの出会いは50を超える数のなかでもせいぜい2つしかない。
だから、仮に10万円以上もするような他社製ヘッドフォンをくれてやると言われても
「そんなのはいらんからオーディオテクニカの木のやつをよこせ」
と、きっとそう言うに違いないほど惚れている。
これは分解能が良いとか空間の広がりを感じるとか、そんなベタなオーディオ的な評価では決して表せない。
バイオリンを聴けばデッキの木の香りがしそうなほど甘美であり、ピアノを聴けば弦をたたくインパルスの音色に感動し、あろうことかFM音源でさえアコースティックな響きを伴って官能的なしらべに聞こえるのだ。
音楽を歌詞やリズムやメロディーで楽しむのではなく、もっと原初の魂をくすぐるように楽器の音色そのものを楽しむために生まれたヘッドフォン、こいつはそういう性質のものなのである。
これは同じオーディオテクニカの(木ではない)アートモニターシリーズでも出るか?
音の傾向はよく似ている。
だが響きが全く違う。
これは木でなければ出ない音なのだと、聞き比べてみればわかる人にはわかる。
こんなヘッドフォンが他にいくつあるだろうか?
無いとは言わないが、ほとんど無い。
これは50をゆうに超える数を聴いて選んだわたしはそう断言できる。
それから1つ言わなければならないことがある。
ヘッドフォンなので、かけ心地も重要だ。
わたしの場合、みみたぶを圧迫するものは絶対イヤなので却下。
そしてそれなりに値のはるヘッドフォンは重たいものが多いので、その重たい重量を耳のまわりだけで支えるような疲れる構造になっていないかというのも重要だ。
そして、さきの4つのヘッドフォンのなかで優れたかけ心地のものは例の木のヘッドフォンしかなかった。
実際このヘッドフォンはかなり重たい部類に入るが、重さを頭の上でささえる構造になっているため、徹夜でヘッドフォンかけても全然気にならないという優れた構造を持つ。
このヘッドフォンの惚れ込んだわたしは、いつかこのヘッドフォンを買おうと心に決めた。
しかし当時は社会人ではなかったので、お金が無くてしばらくは指をくわえて見ているしかなかった。
ついに手に入れたときの感動はひとしおだった。
その晩はクラシックからゲームのサントラから、なんだかんだ徹夜で音楽を聴き浸った。
それに、なぜこんなに音が良いのに世間で評判にならないかフシギなくらいだった。
1年くらいたった後だろうか。
少しずつ人気が出だした。
オーディオ誌などでもどんどん評価が上がってきた。
わたしの耳やわたしの判断は間違ってはいなかったと、少し誇らしく思った。
それから10年以上たった。
コンスタントにモデルチェンジを繰り返し、いまだ後継機は続いている。
そして今となってはオーディオテクニカのフラグシップを担う商品にまで駆け上がった。
当時はアートリンクシリーズと呼んでいたが、どうやら今はWシリーズというらしい。
見かけたら聴いてみて欲しいと思う。
あれ以来10年以上たったが、いまだにこのヘッドフォンはお気に入りで日々使っている。
他の製品など考えられない、とまではいかないが、いまだ後継機くらいしか浮気の対象は見つからないのである。
きっと壊れたとしてもまた同じシリーズを買うだろうし、もしシリーズが製造中止になったら一生分として2~3台くらい追加で買ってしまうことになってしまうだろう。
なるべくそんな日は来ないことを祈る。
サイフ的にもね。
追伸:
いちおう同シリーズの前のもリンクを記しておく。
わたしの愛したマシンたち(エスプレッソマシン編)
http://blog.goo.ne.jp/beamtetrode350b/e/a249c805d2c678289fe38a4b958cedea
各話ごとに完結しているので前のは別に読まなくてもいいが、第1弾はエスプレッソマシンについて2009.06.19に記してある。
わたしにはお気に入りのヘッドフォンがある。
オーディオテクニカの木のヘッドフォン、その最初期モデルである。
ATH-W10VTG
http://www.audio-technica.co.jp/products/hp/ath-w10vtg.html
いまでこそオーディオテクニカはクソ高いヘッドフォンを出してるが、当時はせいぜい高くても1万円代のヘッドフォンしか出していなかった。
それもそのはず、世界に並みいる強豪ひしめく高級ヘッドフォン市場に、言っちゃあ悪いがただのAVアクセサリー屋のオーディオテクニカが太刀打ちできるとは到底思えなかったのだ。
それは当時のだれしもが思うところであろう。
1996年のことだった。
バブル後遺症がどうこうと言われていた時代、なぜかオーディオテクニカは勝負に出た。
高級ヘッドフォンへの参入である。
オーディオテクニカは誰しもが思いつきそうだが誰も製品化していなかったやりかたで参入した。
ヘッドフォンのハウジング(いわゆる外側)を木で作ったのである。
なぜ木が良いのか?
これはあくまでも私見だが・・・
ヘッドフォンやスピーカーの箱はなるべく理想剛体に近いほうが良い。
でなければ変な箱鳴りがしてしまうからだ。
とは言っても理想剛体に近いものというのもかなり難しい。
たとえば10mm厚のステンレスであれば理想剛体に等しいだろう。
変な箱鳴りはほぼカンペキに抑えられる。
ところが、そんなヘッドフォンはあまりにも重たすぎて首にはかけられない。
ではどうすれば良いか?
そこそこの重さでそこそこの剛性をもつ材質で作るしかない。
特にヘッドフォンはそうである。
だから箱鳴りはカンペキには抑えられない。
ならば、響いたとしても心地の良い響きの出る材質で作るべきだ。
プラスチックなど論外だ。
もちろん木で作るのが望ましいし、できることなら無垢材にしたい。
わたしはそう思う。
それをオーディオテクニカがやったのだ。
では、なぜ他のメーカーがやらなかったのか?
木材加工に詳しくないこともあって、わたしにはそれはわからない。。
無垢材で作るとすると、材料調達の問題や経年変化まで考慮した品質管理の問題など、ふつうの電気屋では到底退治しがたい難しい課題が多いだろうと思う。
そして、オーディオテクニカ的には満を持して木のヘッドフォンが発売された。
これは驚くほど音が良かった。
しかし、世間の評判はビミョーだった。
発売後しばらくは特に良いとも悪いとも言われず、イマイチ話題にならなかった。
わたしはこのヘッドフォンを含め、50をゆうに超える数のヘッドフォンを視聴し、最も音の良いものを探し続けた。
まだカネ出しても良いと思える程度のものが2つ。
「これは欲しい!」と惚れる音の出すものが2つ。
あれだけ聞いてそのくらいの選択肢しか残らなかった。
正確にいうと、「音が良い」と表現するのは不適切な気がする。
有象無象のあらゆる音色を奏でるヘッドフォンのなかにして、そのなかでわたしの心の奥底にとどき、魂を揺さぶる音質を出せるもの。
そう言ったほうが近い。
良いか悪いかという客観的判断ではなく、魂がそれを理解するか、そういう判断だ。
そして魂を揺さぶるほどの出会いは50を超える数のなかでもせいぜい2つしかない。
だから、仮に10万円以上もするような他社製ヘッドフォンをくれてやると言われても
「そんなのはいらんからオーディオテクニカの木のやつをよこせ」
と、きっとそう言うに違いないほど惚れている。
これは分解能が良いとか空間の広がりを感じるとか、そんなベタなオーディオ的な評価では決して表せない。
バイオリンを聴けばデッキの木の香りがしそうなほど甘美であり、ピアノを聴けば弦をたたくインパルスの音色に感動し、あろうことかFM音源でさえアコースティックな響きを伴って官能的なしらべに聞こえるのだ。
音楽を歌詞やリズムやメロディーで楽しむのではなく、もっと原初の魂をくすぐるように楽器の音色そのものを楽しむために生まれたヘッドフォン、こいつはそういう性質のものなのである。
これは同じオーディオテクニカの(木ではない)アートモニターシリーズでも出るか?
音の傾向はよく似ている。
だが響きが全く違う。
これは木でなければ出ない音なのだと、聞き比べてみればわかる人にはわかる。
こんなヘッドフォンが他にいくつあるだろうか?
無いとは言わないが、ほとんど無い。
これは50をゆうに超える数を聴いて選んだわたしはそう断言できる。
それから1つ言わなければならないことがある。
ヘッドフォンなので、かけ心地も重要だ。
わたしの場合、みみたぶを圧迫するものは絶対イヤなので却下。
そしてそれなりに値のはるヘッドフォンは重たいものが多いので、その重たい重量を耳のまわりだけで支えるような疲れる構造になっていないかというのも重要だ。
そして、さきの4つのヘッドフォンのなかで優れたかけ心地のものは例の木のヘッドフォンしかなかった。
実際このヘッドフォンはかなり重たい部類に入るが、重さを頭の上でささえる構造になっているため、徹夜でヘッドフォンかけても全然気にならないという優れた構造を持つ。
このヘッドフォンの惚れ込んだわたしは、いつかこのヘッドフォンを買おうと心に決めた。
しかし当時は社会人ではなかったので、お金が無くてしばらくは指をくわえて見ているしかなかった。
ついに手に入れたときの感動はひとしおだった。
その晩はクラシックからゲームのサントラから、なんだかんだ徹夜で音楽を聴き浸った。
それに、なぜこんなに音が良いのに世間で評判にならないかフシギなくらいだった。
1年くらいたった後だろうか。
少しずつ人気が出だした。
オーディオ誌などでもどんどん評価が上がってきた。
わたしの耳やわたしの判断は間違ってはいなかったと、少し誇らしく思った。
それから10年以上たった。
コンスタントにモデルチェンジを繰り返し、いまだ後継機は続いている。
そして今となってはオーディオテクニカのフラグシップを担う商品にまで駆け上がった。
当時はアートリンクシリーズと呼んでいたが、どうやら今はWシリーズというらしい。
見かけたら聴いてみて欲しいと思う。
あれ以来10年以上たったが、いまだにこのヘッドフォンはお気に入りで日々使っている。
他の製品など考えられない、とまではいかないが、いまだ後継機くらいしか浮気の対象は見つからないのである。
きっと壊れたとしてもまた同じシリーズを買うだろうし、もしシリーズが製造中止になったら一生分として2~3台くらい追加で買ってしまうことになってしまうだろう。
なるべくそんな日は来ないことを祈る。
サイフ的にもね。
追伸:
いちおう同シリーズの前のもリンクを記しておく。
わたしの愛したマシンたち(エスプレッソマシン編)
http://blog.goo.ne.jp/beamtetrode350b/e/a249c805d2c678289fe38a4b958cedea