調査へ赴く船中の話である。
突然、ハドが笑い出した。
ガンバがジョークを言ったらしい。
「聞いてください」
笑いながらハドが説明するので、何のことだかわからない。
モンゴル人のジョークは、ほとんどが男と女に関わる話である。
それも結構、即物的だ。
夜這いの話を聞いて、みんなげらげら笑っている。
どうも理解できない。
私一人憮然としていると、ガンバが変なことを言い出した。
「モンゴル人は、みんなお母さんのおしっこを飲んでいるんです。」
ガンバも、ハドも、ジャミーも、グンベも、まじめな顔をしてうなずく。
冗談だろう。
「お母さんのおしっこは、どんな病気にもよく効くんです。」
どうも本当のことらしい。
1996年からモンゴルに来て、17年たつが、初めて聞く話だ。
彼らも話にくかったのかもしれない。
「赤ちゃんのおしっこもよく効くのですが」
こちらのほうはなんだかそんな気もする。
「自分のお母さんでないとダメなんです」
なるほど。
お父さんのおしっこではダメらしい。
今でも飲んでいるのか、と聞くと、そうだと全員がまじめな顔でいう。
みんなして私をからかっているのだろうと思って、帰国してからサイトで調べたら、なるほど同じような記事を見つけた。
かくしてモンゴル人は、家族、特に母親への愛情が人一倍強い。
きっと、ジンギスカンもお母さんのおしっこを飲んだのだろう。
「生暖かいのはちょっと飲みにくいけどね」
とガンバが締めくくった。
男の子たちが徴兵に行くとき、母親は、自分の尿が入った団子を作って子供に渡すのだという。
日本で言う、正露丸のようなものだろう。
無病息災。
母親の力は何でも直してしまう。