恥ずかしい話だが、ブダペストでゴッホのポピーの絵を見るまで、この花のことは何一つ知らなかった。
中国では虞美人草とも呼ばれ、日本ではヒナゲシ、フランスではコクリコと、様々な呼び名を持っている。
というか、それぞれ違う花だと思っていた私は、花オンチもよいところである。
ケシ科ということで、見ていると魅惑されてしまうような気がする。
とても小さな実をつけるところから芥子粒(けしつぶ)という言葉が生まれたとされている。
なるほどな、と思う。
4月から6月に花が咲く。
原産は欧州だ。
慰め、いたわり、思いやり、七色の愛、、、といった花言葉が並ぶ。
どんな思いを持ってゴッホはこの花を描いたのだろうか。
不遇であった彼の生涯を思う時、咲き乱れるポピーの赤色は彼の情感につながっている気がしてならない。
ある意味で、狂気とも言える。
風景画家は、バランスを大切にする。
ブライアンの絵を見ていると、重力に支えられた安定性がある。
人はそれを見て、心の安心を得る。
ゴッホの絵は、どこかその安定性を欠いている。
少しの不安。
それは色彩であったり、バランスであったり、うつろいであったりする。
逆に言えば、その不安定さが見る人の心をつかむ。
人は皆、不安定な世界に生きている。
気候の変化、時間の変化、心の変化、など。
ゴッホは、そのような機微を、意図しないで描いてしまう。
そこに彼の天性の無邪気さがある。