からからと回る寿司を眺めて、ため息をつく。
ブダペストに着いた初日のことだ。
二段構えの回転台を自慢して、店のオーナーが熱弁をふるう。
「上の段が暖かい食べ物で、下の段が冷たい食べ物です」
確かに、くるくる回る台の上段には暖かい中華料理が、下段には寿司などが乗っている。
それにしても、この干からびたネタはどうだ。
上から暖めれば、寿司だって化石になってしまう。
アイデアと結果が相反する典型的な例だ。
そう言えば、日本の某総理大臣が、東欧を訪問して日本料理を宣伝した映像が思い浮かんだ。
アレはないよな。
日本から有名な店の料理人を連れて行ったらしいが、根本的に間違っている。
外国人が、そんな高級な日本料理と触れ合う機会など、皆無に近い。
よほど金持ちで、グルメな人たちだけだろう。
海外にある日本料理店は、その土地にあった食材で、日本料理的なものを提供している。
味のほどは言えないが、それでも結構、地元の人でにぎわっている。
特別なパーティで高級な日本料理を食べた人が、地元の店に行ってクレームをつけたらどうなるのだろうか。
店のオーナーは困惑するし、所によってはつぶれるかもしれない。
大切なことは、目線ではないかと思う。
地元の人に合った目線で、日本の文化をさりげなく売り込むことが大切なのではなかろうか。
特別なものは、そのときにはよいが、やがて忘れられてしまう。
初めはうまいと思わなかったハンガリー料理も、次第に慣れてきた。
味わいというのは時間がかかるもので、けたたましく通り過ぎる文化は、顰蹙を買いこそすれ根づくことはない。