
浅田次郎の一刀斎夢録を読了した。
新撰組三番隊長斉藤一の回顧録だ。
居合いの達人であった斉藤は、人きりとして幕末を生きた。
坂本竜馬も彼が刺殺したこととしている。
明治・大正と生き残った斉藤一が梶原稔(みのり)という近衛師団中尉との出会いを通じて、自己の生き様を語りかけている。
長編だが、筋はシンプルだ。
浅田が言わんとすることは、次の数行に凝縮されている。
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やさしげな言葉はいくらもかけられたが、やさしい心を持つ人はほかに知らなかった。
それは救われざる命を救わんとする人の情ではなく、まして己が身を捨てて人を救わんとする仏の慈悲でもなく、救われざる命ならば己が手で奪うと決めた、鬼のやさしさであった。
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今、日本のなかで欠けているもしくは忘れてしまった、無慈悲の慈悲というものだろうか。
与えられることを権利と思い
自己の主張を正義と思うことが
いつの時代でも真理だとは限らない。
それは戦うことを糧とし
人を殺めることを日常とした
鬼としての生き様を知らないからだ。
浅田は、斉藤の言葉をして語らせる。
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もはや技でもなく、心でもない。
勝つると負くるの正体を知るものこそが、天下第一等の剣士なのだ。
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勝ち負けの正体とは何か。
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面籠手は無きものと思え。
竹刀を真剣と信じよ。
さすればいつか、勝つると負くるの正体が、おのずと見えてこよう。
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そこには、言い訳が効かない世界がある。
それは誰彼のせいではなく、ぎりぎりの世界に自分を追い込むことによって到達する境地だろう。

今年のクルーレスソーラーボート大会は、少々悲惨だった。
どうも最近、天気が良くない。
今回も、初日は曇りで2日目は雨だった。
結局、立命館大学のチームは入賞を逃してしまった。
残念。
ただ、人も物も、もう少しタフになってほしいと思う。
ロボットはタフでなければ生きていけない。
その意味で、いつものことながら、浦先生の活力には脱帽する。

懇親会の前に講演会を開催したのだが、熱心な話に全員が魅かれた。
水中ロボットの歴史は、失敗の連続だった。
それでも懲りないで挑戦し続ける。
学生たちに見習って欲しいと思う。
負けないこと。
諦めないこと。
夢を持つこと。
そんなおじさん世代の姿勢を、若者たちに語りかけることが必要な気がする。

そう、もう少ししたらロボットの世界がやってくる。
このソーラーボート大会も18年を数える。
あまり進歩しない取組みだったが、それでも少しずつ変わってきている。
なにせ、雨の中でも走ったのだから。
ひたむきに頑張ること。
やがて陽がさすこともあるのだ。
来年は、国際的な大会を狙うとすると、それなりに仕組み作りが必要だ。

モンゴルから冬の便りが届いた。
ハトガル村にすむガンバ君からのメールだ。
フブスグル湖の河口まで氷が迫っている。
空気が凍てつくような美しさだ。
こうして厳しい冬を迎えるのだろう。
暑い日本と寒いモンゴル。
世界の広さと狭さを実感する。
一昔前には考えられなかったことだ。

福島第一原発の汚染対策に関する提案が募集されている。
国際公募だが、少々分かりにくいので以下に要領をつけておく。
東京電力は地下水モデルを公表している。
応募されるのなら参考にして欲しい。
この種のモデルは、ある程度現実を再現していると思われるが、本当か?と問われるといささ心もとない。
というのは、モデルは基本的に保存則に基づいているからだ。
建屋には1日400トンの地下水が流入し、これに冷却水が400トン加わると言われている。
400トンは浄化して再冷却に使い、残り400トンを回収してタンクに貯蔵している。
問題は、地下水が600トン流入して200トンが他にもれているのかも知れず、増えている量400トンだけで議論することは正しくないかも知れないことだ。
それだけ地下水の流れは複雑なのかもしれない。
炉心の状態も良く分からないのだから、水収支だけから推定するモデルにも限界がある。
困ったことだな、と思う。
公募の締め切りは10月23日で、11月中ごろに汚染水処理対策委員会に報告するらしい。
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募集要領
http://irid.or.jp/cw/?page_id=30&lang=ja
◾技術提案・助言についての情報を提供いただける方は、募集要領を御覧の上、所定の様式により御提出いただけますようお願いします。募集要領 <PDFをダウンロード>
(別添)特に技術提案・助言をお願いしたい事項 <PDFをダウンロード>
◾応募様式
◾様式1:御連絡先(一般公開されないもの)
<PDFをダウンロード> <WORDをダウンロード>
◾様式2:御提案書(汚染水処理対策委員会に報告され、一般公開されるもの)
<PDFをダウンロード> <WORDをダウンロード>
◾補足説明 (様式自由、一般公開されないもの)
◾10月23日(水)までに提供いただいた情報は、外部専門家の参加を得たIRIDの検討チームにより分類・整理を行った上で、11月中旬頃に開催予定の「汚染水処理対策委員会」に報告・公表される予定です。
◾お問い合わせ先
技術研究組合国際廃炉研究開発機構 (IRID)
汚染水技術調査チーム
E-mail: cw03@irid.or.jp
◾ご提出先
技術研究組合国際廃炉研究開発機構 (IRID)
汚染水技術調査チーム
E-mail: cw@irid.or.jp

トチノキの見学会を開催する。
10月19日土曜日だ。
まだ空きがあるのでぜひ参加してほしい。
申し込みはびわ湖トラストのホームページにのっている。
無料なのは、平和同財団が財政的な支援をしてくれるからだ。
この日にガイドをしてくれる青木さんは、朽木の山を守っている植物学者だ。
もと学校の先生だけに、その話しぶりは楽しい。
締め切りが14日に延長されている。
この時期、天気さえ良ければ、山へ行くのは最高に楽しい。
空気が澄んでいるし、季節の変わり目を実感できるからだ。
毎日仕事に追われる日々から開放され、自然と触れ合うことは人間を豊かにしてくれる。
普段、人間関係に悩まされている人には、ぜひお勧めしたい。
積極的に生きるきっかけを与えてくれる。

有職料理というのは、平安時代の宮廷料理に歴史をさかのぼることができるようだ。
大津に、有職旬菜料理を標榜している店がある。
割烹「いと井」だ。
店主は、飯土井さんという。
「ヘンコです」と本人も言うように、頑固なおやじだ。
彼との付き合いも長い。
もともとは、浜大津の長等に店があった。
オプテックスの小林さんに教えてもらって訪ねたのが最初だ。
東大の浦先生と二人で行った時のことを今でも忘れない。
当時、と言っても今から25年ほど前のことだ。
二人ともまだ若かったから、ちょっとした悪のような恰好をしていた。
サングラスをしたままで店に入った。
初めて入る飲食店というものは、それなりに緊張するものだ。
引き戸を開けるとカウンターが見えた。
客はいない。
「空いてますか」と私が尋ねた。
「空いてません」と店主は言った。
「すみません」と言って、私たちは引き返した。
まるで漫才みたいなやりとりだった。
こうして再挑戦を繰り返しながら常連となってしまった。
店主もヘンコなら、客もヘンコだ。
その後、大津駅前に店が移ったが、ついて行った。
飯土井さんは、京都の料亭で修業した。
京風の季節(旬菜)料理を出す。
それが有職旬菜料理らしい。
私が気に入っているのは、鴨ステーキと焼フグと鯖寿司だ。
あと、珍味としては、鮒ずしの頭のタタキがいい。
これは飯土井さんのオリジナルだ。
これまで大津や京都の店をあちこち行ったが、舌の肥えた人には、いと井はお薦めである。
ただ、このヘンコなおじさんからうまいものを食べれるようになるには、20年くらいの付き合いが必要なのかもしれない。
息子さんも板さんだが、親父さんに似てヘンコだ。
二人は喧嘩したり仲直りしたりして、引っついたり離れたりしている。
この二人がいる間は、大津での会食には不自由しないと踏んでいる。
私が生きている限りは、頑張ってほしいと思っている。

コーヒーへのこだわりは、天保さんから教わった。
もう20年間くらい購入しているのだろうか。
電話一本で送ってくれるのがうれしい。
彼はボンネージュという喫茶店の店主だ。
JR茨木駅の前に店がある。
小さな店だが、いつも口うるさいお客さんであふれている。
私が買うのはキリマンジャロで、500グラムの袋を二個買う。
注文してから焙煎してくれるので入手まで数日かかるが、届いた時の香りには彼のメッセージが籠められている。
大学へ送ってもらうと、研究室はコーヒー豆のさわやかな匂いであふれる。
これをハンドミルで挽くのだが、これにもこだわりがある。
私は、断固、粗挽き派だ。
粗く挽く方がコーヒーの甘さが出ると固く信じている。
ハンドミルは30年前に京都大学にいた頃に使っていたもので、何回も修理しながらいまだに使用している。
刃も丸みを帯びてきているところを見ると、コーヒーと一緒に鉄分も飲用してきたのかな、とつい思ってしまう。
そう言えば、京大の近くにアラビカという粗挽きコーヒーを飲ませる喫茶店があった。
少し髪の毛が薄いマスターとチャーミングな奥さんが二人でやっていて、なんとなく居心地の良い店だった。
学生時代、よくここへ通っては、オムライスとコーヒーを頼んでいた。
まるでガロの歌に出てくるような店だった。
就職してからも、思い出しては立ち寄った。
1970年、18歳の時に大学へ入ってから通った周辺の飲食店の中で、数少ない生き残りの店だ。
2年前に久しぶりに訪ねたら、そこにはマスターの姿はなく、奥さんだけがカウンターにいた。
自分も老いたけれども、大学町も様変わりしてしまった。
アラビカというのはコーヒーの品種で、世界にある2~3種の中の最大品種だということを天保さんが教えてくれた。
彼は、京大で修士の学位をとってから喫茶店のマスターになった変わり種だ。
京大山歩会という登山サークルの後輩だが、コーヒーでは私の先輩だ。
変わった男が焙煎する変わらないコーヒーの味は、無骨な男に大切なひと時をもたらしてくれる。
私の研究室へやってくる国内外のお客さんは、まずこのコーヒーで歓迎される。
ちなみに水にもこだわっていて、いわまの甜水を使っている。
この水も、30年くらい購入している。
変わらないものがあるから、変わっていることの意味に気が付くのだ。
すべてが変わっていたら、無感動の世界でしかない。
このことを天保さんは、毎回、私に無言で教えてくれる。