現代児童文学

国内外の現代児童文学史や現代児童文学論についての考察や論文及び作品論や創作や参考文献を、できれば毎日記載します。

マロリー・ブラックマン「雲じゃらしの時間」

2017-02-05 10:53:00 | 作品論
 サムという主人公は、マッキー先生が「詩を書いてみよう」と呼びかけたときに、今はいなくなってしまった親友のデービーのことを書いてみようと思います。 
 この本はほとんどの部分が、サムがデービーのことについて書いた詩で構成されているユニークな作品です。
 デービーとの出会い、デービーが他の子と違うこと、ビリビリというあだ名のこと、アレックスたちによるデービーへのいじめのこと、二人の秘密だったデービーのピーナツアレルギーのこと、サムがデービーの秘密をアレックスたちに話してしまったこと、アレックスのいたずらによりデービーがアレルギーのショックを起こしたこと、その後サムとデービーの関係が変わったこと、雲じゃらしの遊びのこと、デービーとの別れ、そして、サムが詩を書くことを通して自分を見つめ直し生きることの意味を発見することなどが、詩のような散文のような軽快な文章でつづられていきます。
 気取らない素直な言葉で書かれているので、詩に「アレルギー」のある人でも、もちろん子どもでもすんなり読め、前向きな気持ちになれる本です。
 しいて難点を言えば、デービーを裏切ってしまったサムの葛藤がややわかりにくい点と、子ども(サム)というよりは大人(作者)の視点で書かれている部分が散見されることです。
 日本では、絵本や童謡になっている場合は除いて、少年詩は子どもの読者にあまり読まれていないと思いますので、この本のようなアプローチは少年詩入門的な働きをするかもしれません。
 この本は、サークル拓という同人誌の読書会用として、2013年に56歳で急逝された浅井利之さんに紹介していただいた本です。
 浅井さんのご冥福を心からお祈りいたします。

雲じゃらしの時間
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あすなろ書房
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及川智洋「左翼はなぜ衰退したのか」

2017-02-05 10:50:54 | 参考文献
 魅力的なタイトルですが、実際は幕末から現代に至るまでの「右翼」と「左翼」の通史であって、表題の内容は最後に簡単に触れているだけで、この本もまた「羊頭狗肉」の類です。
 それも、学術的にきちんと詰められているのではなく、個人的な感想が通俗的に述べられているだけなので、著者のフィルターがひどくかかっていて少しも客観的ではありません。
 ようは、「現在の日本の左翼は、1980年代に世界中で始まった共産主義あるいは社会主義社会の崩壊と、社会民主主義への移行という流れに乗り遅れたために衰退した」といいたいのでしょうが、そんなのはすでに常識なので、全く目新しさはありません。
 最近は、新書でも際物が多いんだなあと痛感しました。

左翼はなぜ衰退したのか (祥伝社新書)
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祥伝社
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皿海達哉「花がらもようの雨がさ」坂をのぼれば所収

2017-02-05 10:48:55 | 作品論
 これは、さらにデリケートな女の子の気持ちを描いた作品です。
 主人公は、算数のテストで過去最高の出来でした。
 答案が返ってくるのを楽しみにしていましたが、期待に反して六十点でした。
 成績の良い同姓の女の子の答案と間違えて返されてしまったので、初めての百点はならなかったものの本当は九十五点でした。
 それに気がついた二人が、いつ告白して答案を交換するかまでの二人の繊細な心の揺れを、主人公がその日初めて持ってきた花がらもようの雨がさにからめて、鮮やかに描き出します。
 現在でも女の子の児童文学の読者は健在なのですが、ここまできめ細やかな心理描写は荷が重いかもしれません。
 それにしても、七十年代終わりごろの児童文学は「文学的」だったんだなあと、あらためて思わされます。

坂をのぼれば
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PHP研究所
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ハレの日々

2017-02-05 09:08:54 | キンドル本
 主人公は受験のプレッシャーによるストレスに負けて、塾の夏期講習の帰りに、アイドルの写真集を万引きをしてしまいます。
 主人公は、監視カメラで見ていた警備員に、あっさりと捕まってしまいました。
 その場は、母親が謝罪して何とかおさまりました。
 でも、それ以来、主人公は悪夢を見るようになります。
 夏休みだったので、万引き騒ぎのほとぼりが冷めるまで、主人公は叔父さんの家に預けられていました。
 そこは父親の実家の地方都市で、ちょうど夏祭りが始まるところでした。
 また、そこは主人公にとっても、小さいころに休みごとに訪れた楽しい思い出が詰まった場所でした。
 叔父さん夫婦と二人の息子たちは、昔のように主人公を迎えてくれました。
 みんなの愛情と夏祭りの楽しさの中で、主人公はゆっくりと人間性を回復していきます。

(下のバナーをクリックすると、2月8日まで無料で、スマホやタブレット端末やパソコンやキンドルで読めます。Kindle Unlimitedでは、いつでも無料で読めます)。

ハレの日々
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平野 厚



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ダブル

2017-02-05 09:05:54 | キンドル本
 主人公は、塾が忙しくてゆっくり遊ぶ暇がありません。
 塾が始まる前のわずかな時間を、そばのゲームセンターですごすのが楽しみでした。
 ある日、ゲームセンターで不思議なゲーム機に出会います。
 数字がすべてそろったら、なんでも願いをかなえるというのです。
 見事に数字をそろえた主人公は、願いをできるだけ有効に利用しようと慎重に考えます。
 そして、なんでも二倍になる力を授けてもらうことにします。
 不思議な力を備えた主人公は、「ダブル」の魔法で自分そっくりなダミーを作ると、塾に代わりに行かせて遊びに出かけます。
 その後もダブルの力を使って、いろいろなものを二倍にします。
 彼を待ち受けていた事件と意外な結末は?

(下のバナーをクリックすると、2月9日まで無料で、スマホやタブレット端末やパソコンやキンドルで読めます。Kindle Unlimitedでは、いつでも無料で読めます)。


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本当のスーパースター

2017-02-05 09:00:07 | キンドル本
 かつて野球界のスーパースターであった主人公も、年齢による衰えを隠せません。
 代打で出場してもダブルプレーばかりなので、マスコミやファンも手のひらを返したように、「ゲッツー製造機」と彼を批判しています
 打撃不振とファンやマスコミによる批判にさらされて、精神的に追い詰められた彼は、突然失踪します。
 支援者が用意してくれた秘密の失踪先では、彼はひたすら眠り続けます。
 ようやく眠りにも飽きたころ、ひょんなことから隣の公園で野球をする子どもたちと知り合います。
 頼まれて子どもたちに野球を教える過程で、彼はしだいに人間性を回復していきます。
 子どもたちとプロ野球のスーパースター、この不思議な関係にもやがて終わりがやってきます。
 マスコミに、彼の居場所を知られてしまったからです。
 プロ野球に復帰した彼がファンに見せた姿は?

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ぼくのバブル

2017-02-05 08:57:25 | キンドル本
 主人公はゲームが大好きです。
 でも、お年玉などのお金はおかあさんに管理されているので、ゲームを自由に買うことができません。
  主人公のおこづかいは、月にたった300円です。
 毎月、もらった日に駄菓子屋で使い果たして、いつもお金にピーピーしています。
 親戚のおばさんが家に来て、お小遣いをもらったので、おにいちゃんとお金を出し合ってゲームを買おうとしました。
 でも、主人公と違って、ケチで貯金が趣味のおにいちゃんとはうまく意見がまとまらずに、ゲームを買えませんでした。
 ある日、主人公は道で一万円札を拾います。
 主人公は、ついそのお金を、ゲームを買ったり、駄菓子屋で使ったりしてしまいます。
 友だちにもお金を持っていることが知られて、彼らにもおごることになります。
 初めはびくびくしていたのに、お金の使い方がどんどんエスカレートしていきます。
 さて、「ぼくのバブル」の結末は?

(下のバナーをクリックすると、2月7日まで無料で、スマホやタブレット端末やパソコンやキンドルで読めます。Kindle Unlimitedでは、いつでも無料で読めます)。


ぼくのバブル
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平野 厚

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宮澤清六「映画についての断章」兄のトランク所収

2017-02-05 08:49:00 | 参考文献
 賢治の映画体験についての、八歳年下の弟である清六氏の貴重な証言です。
 「宮沢賢治の映像世界」(その記事を参照してください)という本にも、「賢治が好きだった映画」というタイトルで転載されています。
 また、宮沢賢治学会イーハトーブセンターの冬季セミナーin東京「宮沢賢治と映画」(その記事を参照してください)においても、安智史の講演(その記事を参照してください)で当日配布された資料の中に、以下のように引用されています。
「子供のころから今まで、映画で私と兄とに一番強く有難い影響をあたえてくれた人はチャールズ・チャップリンでしよう。
 マック.セネットという人がグリフイス映画をつくったといわれている明治の終りころからいままでの問に、チャップリンはあの独特なスタイルでいつも人間味豊かに私どものそばに居たのでした。そばにいたというよりは、いつでも一歩さきを鵞鳥のようによちよちと歩き、底に深い悲しみを潜めながら私どもを笑わせ、ほんとうの喜劇と芸術とはどんなものかを教えてくれました。
(中略)
 彼〔チャップリン〕は時々人世を逃避したくなる人たちをはげまし、沢山の芸術家を育て、後年の賢治の作品にも影響をあたえたと思います。
 チェスター・コンクリン、グロリヤ・スワンソン、ロスコー・アーパックル、メーベル・ノーマンドなどという外人たちを五六十年も前に、日本のチべッ卜といわれた岩手県で、顔だけでお馴染み深かったといったら、本当かなと怪しむ人もあるでしよう。
(中略)
 私が中学校に入ってからは読物もH・G・ウェルズやコナン・ドイルやモーリス・ルブランのものなどを耽読するようになりました。したがって映画も洋画専門館の盛岡劇場で、「名金」とか「プロテア」とか「快漢ロロー」のようなものを多く見るようになりましたが、兄は読みものや映画には少しも干渉しませんでしたし、宗教についても、私には後年まで強いるようなことはありませんでした。」
 このエッセイから二つのことがわかります。
 ひとつは、賢治が生まれる前年に誕生した「映画」が、瞬く間に「日本のチベット」といわれた岩手まで伝わっていたことです。
 今でいえば、SNSやスマホのように、映画という新しいメディアは当時の若者たちを捉えていたのでしょう。
 もうひとつは、外国映画が、外国の音楽や科学や童話と同じように、賢治を魅了し、その作品に影響を与えたことです。
 賢治の作品を読めば、それらがいかに映像的に書かれているかはすぐにお分かりになると思います。

兄のトランク (ちくま文庫)
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筑摩書房
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