日本人を「国家」や「国民」という既成の枠組みからはずして、かっこに入れてみることにして明らかにすることをねらいとした日本人論です。
著者があとがきで述べているように、自分自身の研究や考察ではなく、いろいろな人の研究や考察をつまみ食いして紹介した本です。
ただ、作者はなかなかの博覧強記でまとめ方もうまいので読みやすく、いろいろな本の大事なところを知ることができて(もちろん著者というフィルターによってバイアスはかかっているのですが)、読んでみるとお得な感じです。
著者自身が、ところどころにまとめを用意しているのでそれを以下に紹介します。
ここまでのまとめ(1)
・社会は「政治空間」と「貨幣空間」から構成されている
・政治空間>家族や恋人、友人や知人などの人間関係でできた共同体(政治の倫理)
・貨幣空間>他人同士がモノとお金のやり取りでつながる世界
ライトノベルなどで「セカイ系」と呼ばれる分野では、上記の「政治空間(文学のことばでいうと中景)がなく、いきなり恋愛などの個人の問題(文学のことばでいうと近景)が、「貨幣空間」(文学のことばでいうと遠景)に結びついてしまいます。
・市場原理主義(グローバリズム)>貨幣空間が政治空間を侵食すること
ということは、「セカイ系」は「グローバリズム」が生み出したともいえるかもしれません。
・アンチ・グローバリズム>貨幣空間の侵食(市場の倫理)に対して、政治の倫理で対抗しようとすること
最近の児童文学作品(例えば中脇初枝の「きみはいい子」(その記事を参照してください)など)では、過去の社会への回帰が主張されているものもあります。
・武士道>日本版の「統治の倫理」
・日本人>明治維新の後、西洋との接触によって人工的につくられた自画像(オリエンタリズム)
ここまでのまとめ(2)
・脳のOSは因果律(原因→結果)で、確率的な事象や複雑系の世界を処理できない
・進化論>生物はより多くの子孫を残すように進化してきた(子孫を残せなかった生物は淘汰された)
・進化心理学>ヒトのこころ(感情)は、より多くの子孫を残すように進化してきた(愛情など)
・男と女の生殖機能のちがいが愛し方のちがいを生む
・近親相姦の禁忌>オスがメスを獲得するには、他部族と交換するか、他部族から奪ってくるしかない
・女の交換>贈与・互報酬の文化
・女の略奪>”俺たち”と”奴ら”に集団化しての殺し合い(カニバリズム)
・「神」は脳のプログラムから偶然生まれた
ここまでのまとめ(3)
【農耕文明に特有のエートス(行動文法)の成立】
土地(なわばり)への執着→閉鎖性
全員一致での意思決定→妥協
分を守って生きる→身分制
循環的な世界観→非歴史性
【東洋と西洋のエートスのちがい】
アメリカ人のデフォルト戦略>自分を目立たせる
日本人のデフォルト戦略>他人と同じ行動をとる
【世界の把握の仕方】
西洋人>分類→個や論理の重視
東洋人>関係→集団や人間関係の重視
ここまでもまとめ(4)
・イングルハートの価値マップ
日本人の「世俗指数は際立って高い」
・世界価値観調査
日本人:家族や友人の期待に反しても”自分らしく”生きたい
・日本人は万葉のむかしから世俗の価値しか認めなかった
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・日本の社会は「空気(世間)」と「水(世俗)」でできている
・地縁・血縁を捨てた日本人
「一人一世帯」という特異な文化(単身赴任、ワンルームマンション)
・たまたま出会った場所で共同体(イエ)を作る>学校・会社・ママ友
”無縁社会”は日本人の宿命
ここまでのまとめ(5)
・経済的なグローバリズム>自由貿易(市場原理主義)
・政治的なグローバリズム>リベラルデモクラシー(アメリカニズム)
・貿易とは国際分業のこと>自由貿易によって世界はよりゆたかになる
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・グローバリズム(自由貿易)はユートピア思想
【グローバルスタンダードとはなにか?】
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・古代ギリシアは退出自由なグローバル空間→弁論術(論理)とデモクラシー
・キリスト教の絶対神は「神々の闘争」を避ける工夫→グローバル宗教
・ギリシア文明(ヘレニズム)とキリスト教(ヘブライズム)の合体>近代の成立
・絶対王政に対抗する思想>自由・平等・デモクラシー
・国民国家>人類を啓蒙する軍事国家→帝国主義→さらなるグローバル化へ
ここまでのまとめ(6)
・政治哲学の四つの正義
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①リバリタリアニズム=自由
②リベラリズム=平等
③コミュニタリアニズム=共同体
④功利主義=進化論的な根拠を持たない正義
・意思決定の三つの方法
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①全員一致の妥協
②ルール原理主義
③独裁
・グローバルスタンダード(リベラルデモクラシー)>グローバル空間での絶対の権力
・アメリカは社会そのものがグローバル>グローバル空間化した世界での唯一の正義
ここまでのまとめ(7)
・前近代:無限責任>無責任→空虚な中心
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・連帯責任(中世のムラ社会)
・近代:有限責任>自己責任
法(契約)の絶対性
・統治(ガバナンス)>責任と権限が一対一で対応すること
・会社統治(コーポレートガバナンス)>株主を「主権者」として統治構造を組み立てる仕組み
・みんなのための会社>誰も責任をとらない会社
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・呪術的な無限責任の世界
ここまでのまとめ(8)
・日本の政治 省庁連邦国家日本
①官僚内閣制
②省庁代表制
③政府・与党二元体制
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省庁同士のなわばり争いで機能不全に
・日本の経済 一九四〇年体制=国家社会主義的な統制経済
①終身雇用と年功序列
②メインバンク制
③官僚支配
④補助金・交付金と社会保障制度
⑤農地改革と地主階級の消滅
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「改革」を拒絶する最大の守旧派=企業経営者と労働組合
ここまでのまとめ(9)
・先進国(日本・アメリカ・ヨーロッパ)では株価は上がらなくなった
バブルの崩壊→中産階級の没落
・大停滞=「容易に収穫できる果実」を食べつくした
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国家という「問題」を国家によって解決しようとする矛盾
・ネオリベ≒ネオコン>ポスト「福祉国家」の政治哲学
リベラリズム=福祉国家は破綻している
グローバルな正義=法の支配
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世界思想
・ネオリベを超えていくものはなにか?
ここまでのまとめ(10)
【お金と評判】
・お金>限界効用が逓減
・評判>限界効用が逓増
・実名社会>ポジティブゲーム=できるだけ目立つようにする
・匿名世界>ネガティブゲーム=できるだけ目立たないようにする
【前期近代(大きな物語)から後期近代(小さな物語)へ】
・後期近代><私>中心主義の時代→ナンバーワンではなくオンリーワンへ
・再帰的近代><私>が<私>を参照する無限ループ→自己コントロール
・超越者のいない、世界でもっとも世俗的な日本人→後期近代の完成
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自由のユートピアへ
既存の様々な知見を巧みに現在の事象に当てはまる手腕はなかなかのものでしたが、もっとも世俗的な日本人が後期近代の先頭ランナーで自由のユートピアへ向かうという結論(著者の願い?)は、あまりに手前味噌で楽観的すぎて簡単には首肯はできませんでした。