現代児童文学

国内外の現代児童文学史や現代児童文学論についての考察や論文及び作品論や創作や参考文献を、できれば毎日記載します。

新井素子「未来へ……」

2017-02-16 16:31:42 | 参考文献
 タイム・パラドックス物のSFです。
 過去改変とか、パラレル・ワールドなどを扱っていますが、SFとしての出来はいまいちで、主人公の夢とか妄想へ逃げてしまっている部分もあって物足りません。
 むしろユーモア小説とか少女小説として読んだ方が評価できるでしょう。
 主人公はおばさんなのですが、感覚は未成熟な少女のままです。
 そのあたりは、現実のアラフォーやアラフィフの少女おばさんたちを確実に捉えています。
 おそらく、対象にしている読者もそういった世代の女性が中心でしょう。
 それにしても、作者のジェンダー観の古さは目を覆うばかりで、主人公がタイムスリップする1990年代へ、作者自身もタイムスリップしてしまったかのようです。
 かつて大塚英志は、新井の作品世界を、アニメ・漫画的リアリズムの嚆矢と評しましたが(詳しくはその記事を参照してください)、彼女がデビューしてから三十年以上の時間が経過して、ライトノベルなどではそういった世界をとうに飛び越えてしまっています。
 一方、新井の方では、アニメ・漫画的リアリズムの世界から、日常的リアリズムの世界へ回帰しているようです。

未来へ・・・・・・
クリエーター情報なし
角川春樹事務所
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小野正嗣「九年前の祈り」九年前の祈り所収

2017-02-16 16:30:05 | 参考文献
 第151回芥川賞を受賞した中編です。
 非常に技巧的な作品で、様々なレトリックを駆使した文章芸術として完成度が高いです。
 都会と過疎地、現在と過去、外国と日本など、いくつもの点で二重構造になっていて、それが混在しているので読者は作品世界の中を彷徨うことになります。
 中でも、国際結婚、シングルマザー、障害児の子育てなどの今日的なテーマと、方言をフルに生かした土着性が、作品全体の二重性を際立たせています。
 そういった作品世界の中で、障害を持ったハーフの子どもをこれからも懸命に育てていこうという主人公の祈りと、やはり障害を持っていて今は死の病の床にいる息子に対する老婆の祈りとが、ラストで鮮やかに交錯します。
 この作品は芥川賞を取ったのでたくさん売れるでしょうが、こういった典型的な純文学作品はビジネス的には厳しいだろうなと推察されます。
 それでも、本になるだけ児童文学の世界よりはましかもしれませんが。

九年前の祈り
クリエーター情報なし
講談社
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津村記久子「バスのアナウンスのしごと」この世にたやすい仕事はない所収

2017-02-16 12:46:01 | 参考文献
 連作短編集の第二話です。
 主人公は、今度はバス会社で社内広告のアナウンスを作成する職場に採用されます。
 彼女は、年下の先輩社員と一緒に仕事をするのですが、たかがアナウンス作成のためになぜ専任者が二人も必要なのか、設定自体が今度も胡散臭いです。
 しかも、どうやら、その先輩社員には、そのアナウンスによってお店などを開店させたり閉店させたりする能力をもっているようです。
 お話自体は他愛のない内容だし、ラストのハッピーエンドも何となく想像がつきます。
 しかし、この作品の優れた点はそういったところにはなく、一緒に働く上司や同僚の様子がいかにもありそうに生き生きと書けている点でしょう。
 こういった働く場所での作者の観察眼は、会社を辞めて専業作家になっても健在なようです。
 さらに、作品には実際のアナウンスの例が頻繁に出てくるのですが、その完成度はかなり高く、広告としても成立してますしユーモアもきいています。
 なるほど、このアナウンスなら、確かに広告主の売り上げがアップしたというのもうなずけるなあと納得させられます。

 
この世にたやすい仕事はない
クリエーター情報なし
日本経済新聞出版社
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