現代児童文学

国内外の現代児童文学史や現代児童文学論についての考察や論文及び作品論や創作や参考文献を、できれば毎日記載します。

若者のすべて

2017-04-27 16:16:30 | 映画
 1960年公開の、ルキノ・ヴィスコンティ監督の作品です。
 ヴィスコンティと言えば、「ベニスに死す」や「ルードヴィヒ」などの重厚で耽美的な作風で知られている監督ですが、もとをただせば戦後のイタリアの映画運動であるネオレアリズモ(この運動と現代児童文学の共通性は他の記事に書きました)の一翼を担っていました(その時代の彼の代表作は、1948年公開の「揺れる大地」でしょう)。
 この「若者のすべて」は、彼のネオレアリズモ時代の集大成と言われる作品です。
 イタリア南部の貧しい農村地帯から、長男の住む北部の大都会ミラノへ、母親と四人の弟たちが列車で移ってくるところから話は始まります。
 長男は、ミラノで知り合った女性(チョイ役ですが、後の大女優のクラウディア・カルディナーレが若々しい美しさを見せています)と婚約しますが、駅から直接婚約パーティに乗り込んできた母親が、女性の家族と大喧嘩してぶち壊してしまいます。
 その後、その女性と結婚して子どもも生まれますが、三人の生活を支えるのに追われていて、両方の家庭からは距離を置くようになります。
 次男は、ボクサーとしての才能を認められますが、魅力的な娼婦(アニー・ジラルドが演じています)におぼれて身を持ち崩し、最後には彼女を殺してしまいます。
 主役の三男は、すべてを許してしまうやさしすぎる神のような人間で、二男の借金の肩代わりのために、才能はあるけれど大嫌いなボクシングを続けることになってしまいます。
 四男は、一番堅実で、夜学を卒業して自動車会社に勤め、美人のガールフレンドもいます。
 五男は、まだ幼いけれど、そんな兄たちを見ながら、みんなを受け入れようとします。
 公開当時、極端な貧富の差がある、当時のイタリアの南北問題を批判した映画として高く評価されました。
 しかし、ネオレアリズモの代表作(例えば、ロベルト・ロッセリーニの「無防備都市」や「戦火のかなた」、ヴィットリオ・デ・シーカの「靴みがき」や「自転車泥棒」、フェデリコ・フェリーニの「道」(その記事を参照してください)や「カビリアの夜」(その記事を参照してください)、ピエトロ・ジェルミの「鉄道員」などと比較すると、問題を男女の関係に収斂させすぎていて、その分社会性が弱まっているような気がします。
 ただし、主役の三男を演じた若かりし頃のアラン・ドロンの美貌を見るだけでも、この映画を一見する価値はあります。


若者のすべて Blu-ray
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小川洋子「誘拐の女王」不時着する流星たち所収

2017-04-27 11:54:18 | 参考文献
 わずか半年たらずだけ一緒に暮らした、血の繋がっていない姉(母の再婚相手の娘で17歳年上)との思い出を綴った作品です。
 誘拐に関して強迫観念を持つと思われる姉の奇行を、愛情深い少女の視点で描いています。
 二人の交流と、「子どもたちを守護する会」という設定には興味を覚えるのですが、ほとんどが説明に終始していて、読者が物語に入っていくのを阻害しています。
 なお、ヘンリー・ダーガーの「子どもをさらう悪と戦う、少女戦士たちの長大な絵物語『非現実の王国で』に触発されて書かれた作品のようなのですが、この作品を未読のため、関連についてはコメントできません。

不時着する流星たち
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小川洋子「散歩同盟会長への手紙」不時着する流星たち所収

2017-04-27 11:50:09 | 参考文献
 散歩をこよなく愛する出版社の元梱包係の話です。
 おそらく、今は精神を病んで療養所にいるようです。
 そんな変化のない日常の中で、毎日の散歩の中に発見するささやかな喜びが綴られています。
 特に、散歩中に拾った字の形をした石で、かつて好きだった(もちろん打ち明けることもありませんでした)女性に、いつの日か手紙を書くというイメージが、心に残りました。
 「ことり」の記事にも書きましたが、こうした名もない市井の人々に向ける作者のまなざしは限りなく優しいものです。
 なお、「生涯、散歩を愛し、散歩者の視点で世界を見つめ続けた」ローベルト・ヴァルザーという作家に触発されて書かれた作品のようなのですが、彼の作品を未読のため、関連についてはコメントできません。

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倉本 采「二月のお話 おねぼう鬼と空とぶパン」パックル森のゆかいな仲間所収

2017-04-27 10:43:42 | 作品論
 今回は、節分にちなんで、人間の世界を追い出されたおねぼう鬼のネムールのお話です。
 このお話では、不思議なものが満載で、おねぼう鬼のネムール以外にも、ネムールを乗せてきた流れ星、空とぶまくら、ふりかけるとなんでも飛べるようになる流れ星のしっぽの金色の粉などが出てきます。
 もちろん、みんなにパンを焼いてくれるウーリー(女の子のようです)を初めとして、主人公のポーとコロンタ、それにこわがりやのフルフル、ひねくれ者のゾンキーといった妖精オールスターも総登場です。
 お約束のおいしい食べ物は、ネムールの魔法の粉を振りかけた、クルミやラズベリーを混ぜ込んだ空とぶパンです。

パックル森のゆかいな仲間 ポーとコロンタ (子どものしあわせ童話セレクション3)
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本の泉社
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倉本 采「スルスルスルッ!」あける28号所収

2017-04-27 10:22:51 | 同人誌
 けんばんハーモニカが苦手な男の子が、楽譜から抜け出した音符たちの頼みをきいて、「心が歌いたくなるとおりに、指を動かして」いるうちに、テストの課題曲を、初めて最後までひくことができるようになります。
 音楽の先生でもある作者ならではの発想や観察がいかされていて、楽しい作品になっています。
 ラストでは、このお話が主人公の夢なのか本当にあったのかは、読者にゆだねられます。

パックル森のゆかいな仲間 ポーとコロンタ (子どものしあわせ童話セレクション3)
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本の泉社
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