現代児童文学

国内外の現代児童文学史や現代児童文学論についての考察や論文及び作品論や創作や参考文献を、できれば毎日記載します。

部活を辞めたくなった時に読む本

2017-09-04 09:41:15 | キンドル本
中学生や高校生の生活において大きな位置を占める部活動。そこには楽しいこともいっぱいありますが、時には忘れてしまいたいようなつらいことも起こります。そんな部活やその周辺で懸命に生きている子どもたちを描いた短編集です。

目次

6分30秒3
一人黙々と長距離走の練習に励む少年。
彼は中学最後の大会に臨みます。
彼の大会の出場には、人には言えない秘密がありました。
その秘密を克服するために、彼は激しい練習をして大会に挑みます。
いよいよスタート。
レースは思ってもみなかった展開になります。
はたしてその結果はどうだったでしょうか?
そして、レースに対するみんなの反応は?
長距離ランナーの孤独と、少年の日々の栄光と挫折を描きます。

世界一の長距離ランナ-
主人公は電車で幼稚園に通っていました。
そこで女の子と知り合います。
彼らは幼稚園の帰りに不忍池に寄り道するようになりました。
そこで中学生の長距離ランナー、山下先輩と知り合います。
区大会の選考会でベスト5に入って選手に選ばれるために特訓していたのです。
区大会の選考会に、二人は山下先輩を応援にしに行きます。
その選考会のレース結果は?
帰り道で、主人公は女の子のために世界一の長距離ランナーになろうと誓います。

無心の一射
主人公は、はじめて弓道の大会に出場します。
しかし、主人公が選手に選ばれたのには、人には言えない秘密がありました。
試合中に、そのことをひきずってしまう主人公は、いつもの弓射ができません。
ようやく無心になれた最後の一射の行方は?

ゴー、ウェスト!
主人公は中学の野球部で頑張っていました。
しかし、いい加減にやっている同学年のチームメイトに足を引っ張られて、大会では結果を出せませんでした。
不完全燃焼な気分の主人公は、他のクラスメイトのようには受験体制への移行ができませんでした。
主人公は、夏季講座のお金を持って、家出をします。
衝動的にバイクを盗んだ主人公は西へ向かいます。
彼を待ち受けていたことは?

再会
高校受験に向けての夏季講座。
主人公は授業に集中できなかった。
引退したバスケットボール部が懐かしかった。
幼稚園の時に一緒だった女の子?
はたして二人はうまく「再会」できるでしょうか?

キッカーズ
主人公たちは、中学校の校庭でゴムボールのサッカーをやっていました。
しかし、練習をしていた野球部ともめて、学校に禁止されてしまいます。
主人公は、部活ではない自分たちのサッカーチームを結成します。
荒川の河川敷のグラウンドで、自分たちだけで練習をしています。
初めての試合で、小学生のチームに完敗します。
それをきっかけに、チームの仲間たちはバラバラになってしまいます。
チーム消滅の危機を迎えた主人公たちの取った行動は?

定価99円(スマホやタブレット端末やパソコンでも読めます)。

部活を辞めたくなった時に読む本
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舟崎靖子「あんちゃん」

2017-09-04 09:33:28 | 作品論
 1985年に書かれた、小学六年生(はっきりとは書かれていませんが、時間関係からするとそのくらい年齢だと思われます)の男の子を主人公にした作品です。
 少年は、秘密の隠れ家にしていた古い空家に放火して、愛知県の救護院に収容されていました。
 ある日、そこを脱走した少年は、四年前までの約一年間、離婚した母と二人で暮らしていた長野県茅野市へ向かいます。
 そこには、「あんちゃん」がいるからです。
 あんちゃんは、母親の若い彼氏(当時二十二、三歳)で、少年をすごくかわいがってくれていました。
 彼は不良あがり(彼も救護院にいたことがあるようです。少年と出会ったころは牛乳配達をしていました)なので、遊び(つり、きのことり、手作りのコマ遊び、そり遊びなど)だけでなく、悪いこと(すり、万引き、輪ゴムで蝶を殺す方法、カエルのはりつけなど)も教えてくれました。
 そのころ(小学校に上がったばかり)の少年にとっては、あんちゃんは世界のすべてでした。
 しかし、あんちゃんに新しい若い恋人ができ、母親は少年を連れて茅野を去って、愛知県の春日井市へ引っ越します。
 そのあんちゃんに、四年ぶりに会いに行くのです。
 電車とバスを乗り継いで、やっとあんちゃんが働いていた商店にたどり着きます。
 しかし、あんちゃんは三年前に交通事故で死んでいました。
 少年は、あんちゃんとの秘密の場所で、スリーピングバッグの中で一夜を明かします。
 その晩見た夢には、あんちゃんとの想い出だけでなく、今の絶望的な暮らし(母親のネグレクト、母親の今の彼氏の中年男、万引き、放火、救護院など)も出てきます。
 しかし、夢の中で少年は、あんちゃんに「もうぬすまない」「もうころさない」と誓うのでした。
 そして、夜中に目を覚ました時に、明日救護院へ帰ることを決意して、今度はかすかにほほえみながら夢ひとつない安らかな眠りにつきます。
 いい意味でも、悪い意味でも非常に文学的な作品です。
 小説的な手法で、子どもの内面を描こうとした当時の作品の傾向を示す典型的な作品です。
 前述したあらすじは、時系列に整理したものですが、実際の作品は、実時間と回想と夢が入り混じっていて、時間もかなり前後しますので、子ども読者には読みにくかったかもしれません。
 ストーリーらしいストーリーがないので、今だったらとても児童書にはならなかったでしょう。
 しかし、この作品の魅力はストーリーとは違ったところにあります。
 圧倒的に美しい情景描写、繊細な少年の心の動きを浮かび上がらせる内面描写、あんちゃんの魅力(悪いところまで含めて少年の憧れの存在なのです)、そういったものをないまぜにしたがら、八方ふさがりの少年が変わる瞬間が鮮やかにとらえられています。
 そう意味では、一見すごく変種に見えますが、「現代児童文学」の一つの典型である成長物語なのです。
 あんちゃんを訪ねての少年の旅は、彼にとってはイニシエーション(通過儀礼)(あんちゃんと過ごした夢のような少年時代と決別する)だったのです。

あんちゃん (こども童話館 (12))
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ポプラ社
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