自分の息子を素材にした連作短編集の第一編です。
視点は作者自身にあり、子どもとその周辺は出てきてきますが、あくまでも私小説的なタッチで描かれています。
この短編でも、息子と、保育園での友達とその兄の巻き起こす事件(子どもらしいいたずらです)は描かれていますが、実際にはその兄弟の母親(離婚したシングルマザーで、きんもくせいの香りのする、小柄で細おもての、眼鼻だちのはっきりした美人)への淡い想い(本人よりも妻の方が、はっきりとその気持ちに気づいています)が描かれています。
家庭生活や父親であることにまだ足が地につかない頃の若い父親の様子が飾らすに書かれているので、そうした時期を過ごした経験のある男性読者(私にも身に覚えがあります)には好感をもって読まれることでしょう。
女性読者、特に若い母親たちには許しがたいかもしれませんが、作者は若い頃からけっこうもてていたようなので、彼の妻はこの作品でもこうした問題をうまくさばいています。