現代児童文学

国内外の現代児童文学史や現代児童文学論についての考察や論文及び作品論や創作や参考文献を、できれば毎日記載します。

大平 健「純愛時代」

2020-12-26 17:20:49 | 参考文献

 精神分析医による、精神病理を描いた人気シリーズの第三弾です。

 1990年の「豊かさの精神病理」(その記事を参照してください)、1995年の「やさしさの精神病理」(その記事を参照してください)に続いて、今回は「愛」をテーマにして、2000年に出版されました。

 しかし、回を追うごとに、精神病理的な内容は薄れ、取り扱っている症例も、第一作の22に対して、第二作は7に激減し、今回はさらに減ってわずかに以下の6例です。

 第三世界の若者と結婚寸前までいったものの、ささいなことで破綻した女性会社員。

 パソコン通信(時代が感じられますね)で知り合った人妻との純愛が、いつしか不倫に置き換わってしまった大学生。

 お客の会社員との純愛が、ささいな行き違いで破綻した女子大生風俗嬢。

 クレイマークレイマーもどきの父子家庭が、別れた妻に親権を奪われることで破綻したが、娘の担任の保育士に救われたゲームデザイナー。

 交際雑誌で知り合った大学生の過去の恋愛にショックを受け、さらに初恋相手に再会したショックも加わって、記憶を失った22歳の女性。

 バツ2で二人の父親の違う子供を持つ女性と結婚し、転職先の会社が倒産したショックで不眠症になった34歳のセールスマン。

 また、これらの症例に対する社会学的な考察も、あとがきでお茶を濁しているだけです。

 しかし、それぞれの症例は、へたな短編小説よりもおもしろく描かれ、ストーリーテラーとしての作者の腕前は上がっているようです。

 

 

 

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大平健「やさしさの精神病理」

2020-12-26 16:46:02 | 参考文献

 1990年に書かれた「豊かさの精神病理」(その記事を参照してください)の5年後の続編かと思ったら、前作がベストセラーになったことに味を占めた(著者だけでなく編集者や出版社も)のか、次々に似たような本を書いていたようで、この本も結構売れたようです。
 しかし、前作がバブル期の人々が人間関係を避けてモノへ逃避している姿を、豊富な事例を紹介して鋭く切り取って見せたのに比べると、かなり物足りない内容になっています。
 その理由としては、「やさしさ」をキーワードにして、従来の「やさしさ」(他者の気持ちを理解して共感する)に対して、新しい「やさしさ」(他者の気持ちに立ち入らない)に着目している点は優れていますが、前作に比べて実例が圧倒的に少なく、しかも対象者が前作と異なって経済的に恵まれている人たちに偏っている(第一例の女子高校生の家は共稼ぎ家庭なようですが、第二例はフェアレディZに乗っていた都庁に勤める公務員、第三例は裕福な家庭のモデルのような容姿の予備校生、第四例は裕福な妻に養ってもらっているハンサムな司法試験浪人、第五例は機械メーカーの専務の息子の元優等生、第六例は博士課程に留学している裕福な家庭のアメリカ女性、第七例は弁護士一族の元優等生です。)ことによって、その時代の雰囲気を十分にとらえられていないからだと思われます。
 作者に商品性があるうちに本にして売ることを急いだたために、十分な実例がたまらないうちに出版したのでしょう。
 さらに決定的なのは、前作が出版された1990年とこの本が出版された1995年の間にバブルの崩壊があって、人々の人生や生活への価値観が大きく変化しているにもかかわらず、そうした社会学的な考察が全くないことです。
 そのために、単なる現象(著者の診療所を訪れる患者の症例)の後追いになっています。
  

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