賢治の作品の中では、比較的後期に書かれたとされている作品です。
後期の作品の特徴としては、初期の「やまなし」のような詩的な作品から、しだいに骨格のはっきりした散文的な作品が増えたことがあげられます。
それに連れて、作品の長さも、掌編からこの作品のような短編、さらには中編、そして、「風の又三郎」や「銀河鉄道の夜」のような長編が増えていきます。
この作品も、子ども読者が大好きな繰り返しの手法を使って、起承転結のはっきりしたお話に仕上げています。
登場する動物たちが人間の言葉で話すのも、単なるお伽噺的なメルフェンではなく、その背後にファンタジー的な確固たる動物たちの世界が広がっていることが感じられて、時間を超えて現代の子ども読者をも魅了する作品になっています。
また、この作品は、ゴーシュの成長物語と読むことができます。
それは、三毛ねこ、かっこう、たぬきの子、野ねずみの母子と練習を重ねるうちに、音楽の腕前が上がっただけでなく、その態度に人間的な成長がはっきりと見られます。
それゆえに、ラストの演奏会で、いつもゴーシュを叱っていた楽長だけでなく、他の楽員までもが、彼に刮目するようになる訳です。
そういった意味では、児童文学研究者の宮川健郎がまとめた現代児童文学の三要件(詳しくは関連する記事を参照してください)である、「散文性の獲得」(非常に論理的でしっかり物語を構築できる文章力を持ち)、「子どもへの関心」(子ども読者の興味をひく手法や題材を使用した)、「変革の意志」(ゴーシュの音楽的、人間的成長を描いた物語)をすでに兼ね備えたことになります(カッコ内はこの作品での実現状況です)。
それゆえ、この本に載っている多くの作品が、歴史の中で淘汰されてしまったにもかかわらず、賢治作品が今でも多くの読者を獲得しているのでしょう。