第八十四回(昭和五十五年下半期)芥川賞の受賞作です。
年下の友人(編集者?)と、霊園を訪ねて中央線の終点の高尾まで行く話です。
その車中で、最近亡くなった父や家族たちや若いころの自分を思い出していきます。
戦前はあたりまえだった七人兄弟や祖父母を含めた大家族が、就職や結婚などで家(団地)を離れ、年老いた両親だけが残ります。
父が寝込むようになって、ほとんど繋がりのなかった家族が再集結して、当たり前のようにみんなが手を貸して長男が両親を引き取る様子が感動的です。
つつましい生活(みんな団地やアパート暮しです)ながらも、まだ大勢で少数の老人を支えることができた古き佳き時代が懐かしいです。
ただ、何人かの選考委員も指摘していましたが、父の話が終わって、都営霊園を訪ねる場面は平凡で退屈でした。
質素で小さな墓石のならぶ都営霊園と、隣の大きな墓が立ち並ぶ私営の霊園を対比させて、死後も格差がつきまとう資本主義社会を風刺している(私営霊園にマンションとルビをふっています)のでしょうが、その書き方が浅薄で艶消しでした。
父が消えた (河出文庫) | |
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河出書房新社 |