現代児童文学

国内外の現代児童文学史や現代児童文学論についての考察や論文及び作品論や創作や参考文献を、できれば毎日記載します。

尾辻克彦「父が消えた」

2021-04-26 15:59:09 | 参考文献

 第八十四回(昭和五十五年下半期)芥川賞の受賞作です。
 年下の友人(編集者?)と、霊園を訪ねて中央線の終点の高尾まで行く話です。
 その車中で、最近亡くなった父や家族たちや若いころの自分を思い出していきます。
 戦前はあたりまえだった七人兄弟や祖父母を含めた大家族が、就職や結婚などで家(団地)を離れ、年老いた両親だけが残ります。
 父が寝込むようになって、ほとんど繋がりのなかった家族が再集結して、当たり前のようにみんなが手を貸して長男が両親を引き取る様子が感動的です。
 つつましい生活(みんな団地やアパート暮しです)ながらも、まだ大勢で少数の老人を支えることができた古き佳き時代が懐かしいです。
 ただ、何人かの選考委員も指摘していましたが、父の話が終わって、都営霊園を訪ねる場面は平凡で退屈でした。
 質素で小さな墓石のならぶ都営霊園と、隣の大きな墓が立ち並ぶ私営の霊園を対比させて、死後も格差がつきまとう資本主義社会を風刺している(私営霊園にマンションとルビをふっています)のでしょうが、その書き方が浅薄で艶消しでした。

父が消えた (河出文庫)
クリエーター情報なし
河出書房新社
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吉行理恵「小さな貴婦人」

2021-04-26 15:57:01 | 参考文献

 第八十五回芥川賞(昭和五十六年上半期)の受賞作品です。
 作者は、父吉行エイスケ、兄淳之介、姉和子という芸術家一家に育って、受賞した時点ですでに詩人としては世に認められた存在でした。
 九年間一緒に暮らした愛猫「雲」に死なれた、今でいうペットロス状態が回復していく様子を、鋭い感性と確かな散文とで描いた小品です。
 作者の分身と思われる主人公、「猫の殺人」という連載を書いている老女性詩人G、手作りのぬいぐるみを売る店「竜太」の主人で霊感のある美しい女性志野の三人を中心にした、主に「竜太」を舞台にしてほぼ女性だけで構成された作品は、嫌世、嫌男性感が漂う不思議な世界です。
 「小さな貴婦人」というのは、「竜太」に置かれていた非売品の猫のぬいぐるみで、志野が留守中に店員が誤って主人公に売ってしまったものです。
 実はGも内心欲しがっていたもので、主人公に「小さな貴婦人」が売られた(Gは知りません)ことにより、三人の関係に小さな葛藤が生まれます。
 いろいろな小さなエピソードを経て、「小さな貴婦人」は次第に主人公のペットロスを癒していきます。
 「雲」が死んだ時にできたこめかみにできた茶色のしみが薄れていたことに主人公が気付くラストが鮮やかです。 
 作中作の「猫の殺人」は断片しか書かれていませんが、猫の王女を主人公としたメルフェンのようで、実世界の部分と共鳴して、作品全体が童話のような小説なような散文詩のような不思議な雰囲気を醸し出しています。
 最近は出版を意識した長い作品にばかり賞が与えられますが、本来の芥川賞は、このような今までにない新しい短編に与えられるべき賞なのです(芥川龍之介の作品のようなイメージです)。
 商業出版に向いた作品には、直木賞が用意されているのです(直木三十五の作品のようなイメージと言っても知っている人は少ないでしょうが)。
 ところで、この時の選考委員はそうそうたる顔ぶれで、「小さな貴婦人」は最終投票で七対三と賛成が多くて賞を勝ち得ます。
 賛成票を投じたのは、安岡章太郎、丸谷才一、吉行淳之介(作者の十五歳年上の実兄で、芥川賞初の兄妹受賞と当時話題になりました)、中村光夫、遠藤周作、井上靖、瀧井孝作。
 反対したのは、大江健三郎、丹羽文雄、開高健。
 選評の文章に、それぞれの文学観がうかがえて興味深いです。

小さな貴婦人(新潮文庫)
クリエーター情報なし
新潮社
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聖の青春

2021-04-26 15:10:04 | 映画

 2016年の日本映画です。

 29才の若さで亡くなった将棋の村山聖九段の生涯を描いた作品です。

 ノンフィクション的でなく、無理に人間ドラマを作ろうとして失敗している感じです。

 悲惨な病気の様子や破綻した日常生活を描くのに終始していて、肝心の棋士としての村山九段の魅力が描けていません。

 主人公以外で唯一実名で登場する羽生七冠の描き方も、これではたんなるものまねで、彼の棋士として、そして人間としての魅力を生かせていません。

 もっと村山九段の棋士としての魅力を前面に出して、ノンフィクション的に描いた方がよかったのではないでしょうか。

 

 

 

 

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ジョゼと虎と魚たち

2021-04-26 11:28:35 | 映画

 2003年の日本映画です(2020年にアニメ映画化されましたが、未見です)。

 ノーテンキな大学生の主人公と、足が悪くてほとんど外出せずに暮らしている少女ジョゼとの出会いと別れを、時には純愛風に、時にはエロチックに描いた恋愛映画です。

 妻夫木聡、池脇千鶴、上野樹里といった、当時売り出しの若手俳優たちが生き生きと等身大の若者を演じています。

 特に、池脇千鶴の文字通り体当たりの演技が、この映画の成功を支えています。

 食事などの生活シーンのリアリティと、学校にすら通ったことのない少女といったファンタジー的な要素が、うまくバランスを取っています。

 それを表現するのに、主人公を取り合う二人の女性を、いかにも健康的な上野樹里と病的な池脇千鶴が演じていて、成功しています。

 

 

 

 

 

 

 

 

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ラ・ブーム

2021-04-26 11:28:22 | 映画

 1980年公開のフランス映画です。

 この映画で一躍アイドルになった、美少女ソフィー・マルソーのデビュー作です(この映画にはオーディションで選ばれました)。

 中学生たちの大胆な恋愛シーンが評判になり、フランスだけでなく日本も含めた世界中で大ヒットしました。

 ブーム(子どもたちだけで開くダンスパーティ)やかっこいい男の子にあこがれる女の子の等身大の姿を、両親の浮気や別居などとからめて、コミカルに描いています。

 ストーリー自体は他愛のないものですが、当時(今も変わりませんが)の日本の中学生には考えられないきわどいシーンの連続なので、それにあこがれる世界中の中高生にうけて、それこそブームになりました。

 特に、主役のソフィー・マルソーは日本人好みのかわいい女の子なので、日本でも受け入れられたのでしょう。

 また、主題歌のリチャード・サンダーソンの「愛のファンタジー」も大ヒットしました。

 

 

 

 

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