第三十二回芥川賞受賞作で、作者の出世作です。
現在と違って、もともとの芥川賞は、この作品のような才能ある新人作家の短編におくられるものだったのです。
女子選手が練習している私立の学校のプールで、端のコースで小学生の二人の息子に水泳を教えていた夫(この学校のOBでコーチとも知り合いとはいえ、今では考えられない牧歌的な風景です)を、妻が夕方の犬の散歩がてらに迎えに来て、四人で一緒に帰るシーンから始まります。
このホームドラマ(死語か?)的な家族が、実は危機的な状況に陥っていたのです。
夫が給料六か月分ぐらいの会社のお金を使いこんで、解雇されたところでした。
使い込みの理由はどうやらバー通いらしいのですが、そこには見知らぬ女の影があることも妻は気づいています。
日常のすぐそばにある底知れぬ落とし穴。
この危機をきっかけに、夫と妻、それぞれの人生観が語られます。
この作品で作者が語った仕事観やジェンダー観は現在ではかなり古風なものですが、こうした陥穽がすべての家族のすぐそばにあることは現代でも変わりません。
プールサイド小景・静物 (新潮文庫) | |
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