1963年に出版されたサリンジャーの最後の単行本の翻訳(1980年出版)の「あとがき」です。
訳者は、サリンジャーの本では日本で一番売れている(私の持っている本は1974年5月25日発行の第28刷です)と思われる白水社版「ライ麦畑でつかまえて」(1964年第一刷発行)の翻訳者で、サリンジャーが特に日本でこれほど有名になったことへの最大の功労者です。
この文庫本では共訳の形になっていますが、「あとがき」にはサリンジャーへの変わらぬ愛情が感じられて好感を持ちました。
「大工よ、屋根の梁を高く上げよ」で、サリンジャーのいわゆるグラス家サーガの構想が固まり、「長兄シーモァ」の自殺の謎を核にして、次兄バディ=サリンジャーが語っていくというスタイルが確立したとする訳者の見解には、うなずける点が多いと思われます。
また、一般的には失敗作ないしはサリンジャー文学の行き詰まりと考えられている「シーモア―序章―」に対しても、「立ちはだかる障壁を突破して新しい方法を実現しようとする大胆な実験」と好意的にとらえている点にも共感させられました。
惜しむらくは、サリンジャーの最後の発表作品である「ハプワース16,一九二四」に関する訳者の評価が書かれていなかったのが残念です。