日本児童文学者協会が、1998年5月に出版した日本の児童文学の読書ガイドです。
別の記事で紹介した「児童文学の魅力 いま読む100冊世界編」の姉妹本です。
巻末の佐藤宗子の文章にもあるように、編集委員の一人が途中で清水真砂子から山下明生(作家)にから変わったなどの理由で三年後にやっと出版されましたが、編集委員の交代はいい方向に働いているかもしれません。
この本も、海外編と同様に大人の読者を対象とした本です。
編集委員は、山下以外は世界編と同じ、上野瞭、佐藤宗子、砂田弘、宮川健郎の五人です。
もともと現代日本児童文学を専門とするメンバーに、清水(英米児童文学が専門)の代わりに山下が入ったので、内容には世界編より期待が持てそうです。
文頭に、神宮輝夫が「まえがき」と称して、戦後の現代児童文学を振り返る文章を寄せています。
彼がどういう関係でこの本にかかわっていたのかが不明なのですが、なぜ彼にまえがきを書かせたのでしょうか。
編集委員が責任を持ってまえがきを書くべきだったと思います。
この本にも、1979年1月15日発行の同じ日本児童文学者協会による「日本児童文学100選」という先行する同種の本があります。
その本の編集委員は、同時に出た「世界児童文学100選」と同じで、安藤美紀夫、上野瞭、渋谷清視、神宮輝夫、砂田弘の五人でした。
巻頭に「100冊の選考と戦後日本児童文学」という編集委員による座談会を設けて、選考過程や選に漏れた作品の紹介も行われて彼らの価値基準がわかります。
座談会の題名にもあるように、前の本は戦後児童文学に限定しているので、宮沢賢治、新見南吉、小川未明、坪田譲治などの、日本児童文学史において重要な作品が対象になっていません。
これは、「世界児童文学100選」が20世紀はおろか、19世紀の作品も古典として紹介しているに対して著しくバランスを欠いていると言わざるを得ません。
こういった構成になったのは、渋谷を除くとガチガチの現代児童文学論者ばかりが編集委員になったせいかもしれません。
また、選ばれた百冊は長編ばかりで、短編集は別途「短編集20選」として分けて掲載しています。
それと比較すると、19年後に出たこの本は、もう少しバランスのとれたものになっています。
巻末の佐藤の「日本の100冊を選ぶにあたって」という文章によると、「第一に、中心になる百冊は、「現代児童文学」出発以降今日にいたるまでの作品から選ぶ(注:彼らは「現代児童文学」の出発を1959年と考えているので、1957年10月に出版された石井桃子の「山のトムさん」だけはこの定義に当てはまりません)。短編も、短編集というかたちで考える。従って刊行後日の浅いものでもこれに収録されるものはある。第二に、それ以前の作品については、作品や作家で見出しをたてることを避け、近代の流れとして統一したブックガイドを別に付ける。第三に、リスト作成の過程で浮かびあがった比較的新しい作家の作品群に多少の見直しをし、八十年代以降の動向を補足するべく、百冊とは多少かたちを変え、十八作品を紹介する。」と、古い作品も新しい作品も紹介するような工夫がなされています。
今回選ばれた100冊の中には、「日本児童文学100選」にも選ばれていた本が35冊、「短編集20選」に選ばれている本が4冊と、合計39冊です。
今回選ばれなかった作品は、「二十四の瞳」のように現代児童文学以前の作品や今回一人一作になったので複数選ばれていた作家の作品が、主に割愛されています。
しかし、後藤竜二や長崎源之助のように、作品は違っても「日本児童文学100選」で選ばれていた作家が23人もいますので、「日本児童文学100選」で選ばれた、特に1960年代以降の作家の作品はかなりの割合で今回も紹介されています。
それでも、新たに紹介された作家は39人もいますし、これから読む18冊を合わせると合計57人にもなるので、新たなブックガイドとして有効なものになっています。
これは、今回の編集委員たちが、海外の児童文学と違って新しい日本の児童文学には精通しているためだと思われます。
また、宮川が「現代児童文学としての「童話」」というブックガイドで、宮沢賢治、新見南吉、小川未明、坪田譲治などの作品と現代児童文学との関係と読書案内を要領よくまとめています。
この本では、世界編で行った各界の著名人に対するアンケートをしなかったのもよかったと思います。
各作品の紹介文は、お互いに日本児童文学者協会などで面識があるせいか、やや仲間ぼめ的なものもあって物足りない場合もありました。
巻末の年表は、「日本児童文学100選」にはなかったものなので、読者の参考になります。
最後に、世界編と同様に、こういった労力のかかる本の作成は、多忙な編集委員たちにすべてを任せるのではなく、プロの編集者がきちんと仕事をしないと、今回のようにずるずると発行が遅れてしまいタイムリーな発行ができないなと思いました。
別の記事で紹介した「児童文学の魅力 いま読む100冊世界編」の姉妹本です。
巻末の佐藤宗子の文章にもあるように、編集委員の一人が途中で清水真砂子から山下明生(作家)にから変わったなどの理由で三年後にやっと出版されましたが、編集委員の交代はいい方向に働いているかもしれません。
この本も、海外編と同様に大人の読者を対象とした本です。
編集委員は、山下以外は世界編と同じ、上野瞭、佐藤宗子、砂田弘、宮川健郎の五人です。
もともと現代日本児童文学を専門とするメンバーに、清水(英米児童文学が専門)の代わりに山下が入ったので、内容には世界編より期待が持てそうです。
文頭に、神宮輝夫が「まえがき」と称して、戦後の現代児童文学を振り返る文章を寄せています。
彼がどういう関係でこの本にかかわっていたのかが不明なのですが、なぜ彼にまえがきを書かせたのでしょうか。
編集委員が責任を持ってまえがきを書くべきだったと思います。
この本にも、1979年1月15日発行の同じ日本児童文学者協会による「日本児童文学100選」という先行する同種の本があります。
その本の編集委員は、同時に出た「世界児童文学100選」と同じで、安藤美紀夫、上野瞭、渋谷清視、神宮輝夫、砂田弘の五人でした。
巻頭に「100冊の選考と戦後日本児童文学」という編集委員による座談会を設けて、選考過程や選に漏れた作品の紹介も行われて彼らの価値基準がわかります。
座談会の題名にもあるように、前の本は戦後児童文学に限定しているので、宮沢賢治、新見南吉、小川未明、坪田譲治などの、日本児童文学史において重要な作品が対象になっていません。
これは、「世界児童文学100選」が20世紀はおろか、19世紀の作品も古典として紹介しているに対して著しくバランスを欠いていると言わざるを得ません。
こういった構成になったのは、渋谷を除くとガチガチの現代児童文学論者ばかりが編集委員になったせいかもしれません。
また、選ばれた百冊は長編ばかりで、短編集は別途「短編集20選」として分けて掲載しています。
それと比較すると、19年後に出たこの本は、もう少しバランスのとれたものになっています。
巻末の佐藤の「日本の100冊を選ぶにあたって」という文章によると、「第一に、中心になる百冊は、「現代児童文学」出発以降今日にいたるまでの作品から選ぶ(注:彼らは「現代児童文学」の出発を1959年と考えているので、1957年10月に出版された石井桃子の「山のトムさん」だけはこの定義に当てはまりません)。短編も、短編集というかたちで考える。従って刊行後日の浅いものでもこれに収録されるものはある。第二に、それ以前の作品については、作品や作家で見出しをたてることを避け、近代の流れとして統一したブックガイドを別に付ける。第三に、リスト作成の過程で浮かびあがった比較的新しい作家の作品群に多少の見直しをし、八十年代以降の動向を補足するべく、百冊とは多少かたちを変え、十八作品を紹介する。」と、古い作品も新しい作品も紹介するような工夫がなされています。
今回選ばれた100冊の中には、「日本児童文学100選」にも選ばれていた本が35冊、「短編集20選」に選ばれている本が4冊と、合計39冊です。
今回選ばれなかった作品は、「二十四の瞳」のように現代児童文学以前の作品や今回一人一作になったので複数選ばれていた作家の作品が、主に割愛されています。
しかし、後藤竜二や長崎源之助のように、作品は違っても「日本児童文学100選」で選ばれていた作家が23人もいますので、「日本児童文学100選」で選ばれた、特に1960年代以降の作家の作品はかなりの割合で今回も紹介されています。
それでも、新たに紹介された作家は39人もいますし、これから読む18冊を合わせると合計57人にもなるので、新たなブックガイドとして有効なものになっています。
これは、今回の編集委員たちが、海外の児童文学と違って新しい日本の児童文学には精通しているためだと思われます。
また、宮川が「現代児童文学としての「童話」」というブックガイドで、宮沢賢治、新見南吉、小川未明、坪田譲治などの作品と現代児童文学との関係と読書案内を要領よくまとめています。
この本では、世界編で行った各界の著名人に対するアンケートをしなかったのもよかったと思います。
各作品の紹介文は、お互いに日本児童文学者協会などで面識があるせいか、やや仲間ぼめ的なものもあって物足りない場合もありました。
巻末の年表は、「日本児童文学100選」にはなかったものなので、読者の参考になります。
最後に、世界編と同様に、こういった労力のかかる本の作成は、多忙な編集委員たちにすべてを任せるのではなく、プロの編集者がきちんと仕事をしないと、今回のようにずるずると発行が遅れてしまいタイムリーな発行ができないなと思いました。
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