1970年に書かれた長編小説です。
今回読んだのは新訳ですが、日本語訳は1978年に出ています。
当時(1970年代)は、ポール・ギャリコは日本でも人気作家で、多くの作品が訳されていますが、その中には「ジェニー」のような児童文学の範疇に入れられる作品もあります。
作者は生来のストーリーテラーで、どんなに荒唐無稽な設定(例えば豪華客船が転覆してさかさまになってしまう「ポセイドン・アドベンチャー」など)でも、その剛腕で痛快なエンターテインメントにまとめ上げてしまいます。
この作品でも、マチルダという名のカンガルーが、ボクシングの世界ミドル級タイトルマッチまで上り詰める過程を、機智とユーモアで鮮やかに描いています。
主人公がカンガルーといっても、擬人化された動物ファンタジーではなく、リアリズム(ユーモア小説ですが)の手法で描かれているところが、他の作家とは一線を画しているところです。
さすがに、1970年当時のことですから、現在から眺めるとジェンダー観やマイノリティへの配慮などに欠けている点はありますが、まだまだ現在でもエンターテインメント作品として楽しめます。
特に、ボクシングと、興業、ジャーナリズム、マフィアなどとの関わりについては、かつてスポーツライターだったことの経験が生きていてリアリティがあります。
そのスポーツのことをよく知らない作者が書いたスポーツ物が横行している現在の児童文学作品にうんざりしている目には、こうした本格的な内容(それでいてユーモアで描いている)を持った作品を久しぶりに読むことは大きな喜びです。
マチルダ―ボクシング・カンガルーの冒険 (創元推理文庫) | |
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