1958年にイギリスで書かれた動物ファンタジーの古典です。
日本版は1967年に出ていて、私の手元に今あるのは1982年12月5日23刷ですので、かなりのベストセラーです。
読んだことのない人でも、ペギー・フォートナムの描いたパディントンの絵は、日本でもいろいろなところで使われているのでおなじみのことでしょう。
南米の「暗黒の地ペルー」(こんなところには、当時のイギリス人の差別意識が残っています。ペルーでは翻訳されていないのでしょうか?)からやってきた小さなクマ、パディントン(ロンドンのパディントン駅で拾われたのでそう名付けられています)が、中流家庭のブラウン家(当時は中流家庭でも、イギリスではお手伝いさんがいたのですね。もっとも庄司薫の「赤頭巾ちゃん気をつけて」の1969年の日本の中流家庭にもお手伝いさんは出てきます)の兄妹の下に、末っ子として迎えられ、いろいろな騒動を起こす物語です。
パディントンは典型的な末っ子キャラで、好奇心旺盛ないたずらっ子をして設定されていて、イギリス伝統の動物ファンタジーの手法を使って楽しく描かれています。
パディントンの引き起こすいろいろな騒動には、過度にモラリッシュで寛容さに欠ける現在の日本では許されないようなものも多々含まれています。
こういった育ってきた環境の違いによって引き起こされる「事件」に対して、周囲が寛容さを示すだけでなく彼らに愛情を持てるということは、多様性が求められる今後の日本社会にとっても必要だと思います。
「ばっかなクマ」というのは、「クマのプーさん」がへまをしたときにクリストファー・ロビンがいつも愛情をこめて思うことですが、パディントンもまさに「ばっかなクマ」として周囲の人たちに愛されているのです。
ところで、この「くまのパディントン」はシリーズ化されていて、私が学生だった1970年代(今とは比較にならないほどたくさんの内外の児童文学が出版されていました)に、大学の児童文学研究会の仲間たちと三大動物ファンタジー・シリーズ(他はマージェリー・シャープの「ミス・ビアンカ・シリーズ」(その記事を参照してください)とジャン・ド・ブリュノフの「ぞうさんババール・シリーズ」)と呼んで愛読していました。
それから五十年以上もたってしまいましたが、これらの本が今でもロングセラーとして読み続けられていることをうれしく思っています。
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