これがなんの曲か分かった人は、かなりのジャレット通?!
Still liveというキース・ジャレットのスタンダーズトリオの初期にミュンヘンでのライヴを録音したもので、音質といい構成といい、もう私の理想郷と言ってもいいほど好きなアルバムの中の、ソロの即興演奏だ。
学生のころジャズの先生の一人が聴かせてくれて、それは翌日買いに走ったほど鮮烈な音だった。今の今まで、「この音質が一番好き」といえるお手本のCDの一つである。
いっぱい好きなところはあるんだけど、この2枚目のディスクのyou and night and the musicとsomeday my prince will comeの間にextension と呼ばれる長い三人でのインプロがあって、これが雨が七変化の表情を見せながら通り過ぎていくように美しくドラマティックなのだけど、そのあと雨上がりのように立ち上がるこの上なく美しい、キースのソロピアノのintroと呼ばれる短いインプロがあり、それは文字通りmy Prince..の導入部となる即興なのだけど、それが余りにもセンセティブで感動的過ぎて、スタンダードのテーマが始まると逆にがっかりしてしまうほど。
その音たちには、春を待ち望む二月の雪の下に隠れた蕗の薹の芽のような、憧憬がある。
今回の「普段着コンサート4」は、その「イントロ」をキースがやっているとおりのヴォイシングを出来る限り忠実に音取りして、そのメロディーをアルトフルートでなぞったもの。間違いも多分あると思う。何度聴いても違うように聴こえる内声もあるし、彼の即興の場合内声がバッハみたいに3、4声になっていて、少しでも違うと内声同士が繋がらないから同じでありながら違った曲みたいになっちゃうし、実際にピアノで弾こうとしたら、特に盛り上がるヘミオレの辺りが複雑でめちゃ難しい。もちろんそれは私の拙いピアノテクニックのせいだけど、彼がピアノのクリシェ(弾きやすいように楽器に添って弾くこと)を全くやってなくて、限りなく聴こえたものをそのまま表現してるので、難しい、というのも多分あると思う、、、
このようによーく耳を澄ませて音取りしていると、キースジャレットとはつくづくハーモニーの神様だと思う。
その彼もついにピアノを弾けなくなってしまった。
しかし、こうして彼の音楽は耳から耳へ、手から手へ、遺伝子から遺伝子へと刻まれていく。
話は飛ぶが先日、数週間ぶりにいきなり音楽院夜間営業特別許可が降りて(理由は不明)、即興アトリエの二つが久々に開講したのだけど、同僚の先生、ジャズサックスのアルノーが「この属七の和音のところは7度をこのように使うとどのような響きになり云々、、、」と例によってペラペラ喋っていると、生徒たちがポッカーン!と口を開けて、まーったく意味不明なり、という顔をしているのがとても気になった。
その後アルノーに「ああやってあなた和声のこといっぱい喋ってもね、ザルに水注いでるのと同じよ。生徒たち属七がどっち向いてるのかも分かってないんだよ?そんなことソルフェージュの授業に行ったって誰も教えてないんだよ。これでいいと思うの?!」なんていう話になった。
音楽院に何年もいて、なんで和声の基本的機能の一つも分からないのか、興味さえ持てないのか。
私はそれはやはり教えている側に問題があると思う。
音楽のこんな美しい響きの秘密に興味を抱かせないで、日々せっせと音符を機械みたいに読ませる教育なんて、絶対間違ってる。
ジャレットを聴きながら、景色を見たら、どんな景色だってマジックに見えるんだぞ?!
ということで、映像の景色は録音した日に見た、丁度日の出の時刻のトラムウェイからみた景色を遅回ししたものです。
薄く雪化粧した2月のパリ外縁の風景を、音楽と共に、お楽しみください。
うーっ寒っ!
話、長っ!(笑)
PS。本日から受付にコロナ陽性者が出たということで、またいきなり音楽院が閉校してしまいました。
そのまま冬のヴァカンスに突入しますので、パリ19区音楽院クラスルームからの普段着コンサートは、暫くお休みになります。
ヴァカンス明けの3月に、本当の春が来るように祈っています!