最高に元気のいいトマトたち。
現在ブルガリアに滞在して、地方都市プレヴェンのサマーギターアカデミーで即興アトリエをやらせていただいています。
今年は5月にパリの即興アトリエでやった「上を向いて歩こう」のサルサバージョンを7拍子のブルガリアバージョンに編曲し直して臨んだ。ブルガリア音楽大好きな私は、歌までブルガリア語に訳して7拍子に落とし込む、という凝りよう!(親友のブルガリア人シンガー、コツェさんが歌ってくれました。)するとパリだと難しい7拍子をなんと、小さい生徒たちまでたったの3日でちゃんとノリノリで即興出来るようになるという快挙!!
何を隠そう、ブルガリアにはそういう風になる秘密がある。
コツェさんとギターの生徒達と共演。聴衆までなんと7拍子で正確な手拍子!
それを私はホテルの部屋でつけっぱなしにしているのだけど、無数にある無名の小さな町に、村に伝統音楽のバンドがあって、伝統に根ざした、しかもオリジナリティーを競う曲を日々作曲したりアレンジしたりしてこの局で発表している。この国では、伝統が1日単位で更新されているのである。
そこでは毎日4回は自転車で渡るセーヌ川の見慣れた景色をバックに、マリーアントワネットの斬られた首がメタルバンドの伴奏で歌い、ギャルド(フランス自衛隊)がマリ(アフリカ)のグループと交わり共演し、ラヴェルやドビュッシー、現在の音楽、様々なジャンルのダンスが繰り広げられ、歴史的に男性中心だった国民議会前に黄金色の10人の歴史的女性像がにゅっと続々登場、フランスを誇らしく象徴しながらもフランス人以外の世界的歌手をクライマックスに置いて、国粋主義にも偏らない。
マリのアヤ・ナカムラとギャルド共演の場面は曲線と直線の出会いが最高に美しく、とても印象に残った。
画面上に白人、黒人、女性、男性、性的マイノリティが何人いるのかに常に気を配り、全ての存在しうる芸術ジャンルを尊重しスポットを当てようとしたのは圧巻。そこではアンサンブル・アンテルコンタンポランも現代作品を演奏した。
マリーアントワネットの首が象徴するフランス革命から新たに産まれた多様性の国、毅然と国家の危機を排除しながらも、分かりやすいものを大衆にすり寄って選出するというやり方を斥け、パリという街自体をパレットに怖いものなしで多様性を表現したのはさすが!現代のアートの在り方をスポーツの祭典の場で提示したのは素晴らしいこと。
普段パリでは「女性50%男性50%」という政策を音楽院の課題曲選曲にも押し付けられるわ、「女性の作曲家」のみ課題曲を書けるという国際コンクールや、アラブ人や黒人を選抜に入れるのが必須とかいうコンクールの選抜方法に、「芸術は上から目線の頭数と違うで!」と反発せずにはいられないのだけれど、ブルガリアという、黒人や女性にまだまだ視線の厳しい地から客観的に自分の街を見ると、介入する方が差別を野放しにするよりはまだましかもと思えてくる。
私自身、東洋人でしかも女性でブルガリア音楽をやっている、ということで一度だが差別を受けたことがある。
これは、東京オリンピックの時アフリカ人の日本の伝統音楽演奏家が開会式での演奏を拒否された差別と酷似している。
伝統文化が稀有で素晴らしい国ほど、残念ながら差別意識が根強くなる傾向は否めない。けどこのグローバルな現代社会ではそのような意識が自らの首を絞め、国の人口減少と共に稀有な文化が消滅してしまうのも時間の問題だろう。
大切な文化を守りたいなら、これからは閉じるのでなく、肌の色、血筋の関係なく開いていくことが大切ではないのか。
いつもはスポーツを利用した政治的営利行為としてのオリンピックに辟易している私だけど、今回の開会式については、グローバル世界への美しい可能性を示したパリへ、私は大きな拍手を送りたいと思う。