フルート素材の違いに関して、音色についてはよく語られているけれど、アタック、アーティキュレーションに関してあまり言及されていないと思う。
私はジャズとクラシックと両方を吹くので、両方に対応できる楽器が必要なのだけど、それは単純に好きな楽器だと両方できます、言えるほど簡単ではない。
それは、よく言われるように「ジャズは渋い音、クラシックは煌びやかな音」的な、音色の問題だけじゃないと私個人は思う。その二つを分けるのはアーティキュレーションとリズムの取り方だ。
フィギュアスケートとアイスダンスを両方やるのが難しいのと同様だと思う。ぐーっとエッジに体重をかけることによって大きなリズムを得て飛ぶフィギュアに似たクラシックと違って、ジャズとはまさしくアイスダンスのエッジのように細かくアーティキュレーションを変えることによってリズムを作り出していくからだ。
これまでも本当に沢山のフルートを試奏して来たんだけれど、この度初めて心から買いたい、と思うフルートに出会い、(ブランネンクーパー14k) 店先で試奏するだけでなく、貸してもらって本格的に複数の違うシチュエーションのコンサートで実際に試す、という幸運に恵まれた。
もちろん、そのフルート個体に惚れ込んだわけで、素材は二の次だった訳だけれど、それがたまたま金素材だったので、金のフルートの魅力を初めて経験した。
ここではフルートのブランドでなく、素材に限っての特性を書いていきたいと思う。
金のグワンと一気に重心をかけて息を入れた時の反応出力の大きさ。
これは長大なフレーズが多いクラシックのフレーズを演奏するときに明らかに軍配が上がるので、オケプレイヤーに金が多いのも納得。しかも音質的に銀より暗くはあっても、とにかく中心がはっきりした音なので、いっぱいいるヴァイオリンの上をすーーっと突き抜けて行く。
ジャズを金で吹いた印象では、アーティキュレーションをつけた後の余韻が大きすぎて、次のアーティキュレーションに被さってしまう。
アーティキュレーションの小回りが効かない。余韻に振り回される。アーティキュレーションのチェンジが早く、一つ一つのアーティキュレーションでリズムを活かしていくジャズや民族音楽では、それは欠点となりかねない。(ただしマイクの乗りはとても滑らかだと思う。)
次に演奏シーン別。オケやピアノとの演奏ではppからffまで、どんなに極端なニュアンスで吹いてもその出力の余韻に助けられる(この安定感は銀では得られない)のだけれど、ギターとの演奏だと逆に、金特有の余韻の長さがギターの余韻の短さを強調して、すぐに調和を崩してしまう。
これには、この間のギリシャでのコンサートで、ギターの相方との演奏中に完全に参ってしまった。常に抑えて吹かないと、ちょっと押しただけでアクセル全開になって、ギターの繊細な響きを踏み潰してしまうのだ。
それは、普通車を運転していた人が突然ポルシェを運転する感じに似ている(のかも、多分。知らんけど。)
それでパリに帰ってすぐにCさんのアトリエに助けて!とばかりに飛び込んで、これまでに時々使っていたサクライの木管の頭部管を、ブランネンに合うように管径を調整してもらう。金と木を足して割ると、もしかして響きとダイナミクスを維持しつつ銀管みたいな細やかさを出せるのではないか?そう思ったからだ。
木の素材は、ハーモニクスが少なく、その分多彩なアタック、色合いが出せるから。
そこで気づいたのだけど、銀は、金のような極端なダイナミクスレンジはないけれど、一定幅の間の音の美しいグラデーションを無限に作れる素材なんだ。
金の特性を知ることで、これまで灯台下暗しだった銀にしかない特性を逆に知ることができた。
これまで銀で追求してきたこのグラデーションは堅持したい。
Cさん曰く、金と言っても配合によって全然違った音となり、14金という素材は金、銀、銅の配合のバランスが取れた響きだが、18金という素材は(私のフォリジ頭部管がそれ、とんでもない表現力の豊かさに惚れて購入)、14金より濃縮した艶消し的深みがあり、更に金の特性寄りの響きだという(当たり前か。)確かにマテキ銀xフォリジ18金というのは、なるほどその二つをミックスした金特有の意思の強さを、密度の高い銀の繊細さで受ける、という両面を持つ。
では、木と金のコンビネーションは如何に?!
次のウルクズノフ・デュオのコンサートは、なんと地元パリ。
サクライ木管xブランネン金という未知の組み合わせで臨みます。
追記。銀は息に対して水平に反応するのに対し、金は垂直にも反応できる。よってどちらへのアプローチも出来る分立体的な表現が可能かも知れない。
よって、水平的表現の多いフルートらしからぬジャズサックスのように、立体的なアーティキュレーションを付けることも可能ではないのか?
サックス吹きでない、フルートだけで勝負する私にとって、フルートらしくないということは、とても大事なことなんである。
だから木の頭部管でアタックの余韻さえ抑えられれば、もしかして理想のインプロが可能なのではないか?!なんて、未知の音へのイメージは広がるばかりである。
しかし言うまでもなく、「素材」とは単なるひとつのパラメータであり、それぞれの素材を使ってフルート製作者がどういうヴィジョンを持ちどういう音を求めるのか、そしてフルート奏者のテクニックのキャパ、またどういうコンセプトを持ちどういう音楽がしたいのか。この複雑な絡み合い、響き合いによって無限の音が生まれてくる訳である。
何と面白く奥深い世界であろうか!
ということで。本当は全てのフルートを手元に持っていたいところだけれど、ブランネンのフルートは高すぎるので、これまでのフルートを手放すしか方法はありません。
人生には橋を絶って未知への跳躍すべき時がやってくるもの。
丁寧に丁寧に扱ってきた、銀最高峰の品質のマテキフルートと、惚れ込んだフォリジ18k頭部管にぴったりのシンデレラを探しています。ご興味のある方、5月20日から東京でお試しになってください。試奏お申し込みは今より5月いっぱいまで。
フルート詳細、並びにご連絡先はこちらから😉⤵️
この度、愛器のフルートと頭部管をついに売ります! - SpiMelo! -Mie Ogura-Ourkouzounov
これこれしかじかの理由により。この度、愛器のフルートと頭部管をついに売ります。今はもう廃業してしまったため、現在では大変貴重なハンドメイドの総銀マテキ、偉大な職...
goo blog