SpiMelo! -Mie Ogura-Ourkouzounov

L’artiste d’origine Japonaise qui mélange tout sans apriori

生きた音たちを作品にパッキング

2024-11-22 11:41:00 | Concert Memories-コンサート旅行記
All photos credit by Rémy Dugoua

ボルドー市に2つある、大きな国立現代美術館のうちの一つ、MECA美術館にて、アーティストのシャルリー・オブリーCharlie Aubryがアイデアを生み出した「思い出のシンフォニー」の柿落としがあった。




ヴェルニサージュ(初日)には何とボルドーを中心としたフランス南西部アキテーヌ地方全土から1000人もの人が訪れ、翌日のコンサートもかなりの人たちに興味を持って頂き集まっていただいた。




音楽界から飛び出して老人たちや美術の人たちと過ごす時間。クリエーションのことで頭をいっぱいにしていられる、得難い時間だった。



私の衣装は、日頃からいつも衣装を担当していただいている、素晴らしい服飾アーティストの安藤福子さんFukuko Ando作。


ざっとこのプロジェクトの概要を説明すると、まずシャルリーの依頼通り、9月にボルドーのある老人ホームを訪れて、そこの老人たちに空の五線譜を渡し、自分の思い出を、思い思いに自由に絵に描いてもらった。




私はその絵一枚一枚に対してフルートで即興演奏した。(その時の様子はシャルリーがビデオ撮影し、編集して作品の中心の画面に流されることとなる)




その後、アマチュアの地元の吹奏楽団から来た4人の有志を紹介される。次はその人たちと一緒に展示の初日のコンサートで演奏するための楽譜が必要になる。先述の即興の録音と老人たちのコメントを基に、エレメントやアイデアを抽出して構成を練り、それを楽譜に落とす。しかし読譜力があまりなく、しかも即興をやったことのないミュージシャンにたった数回のリハで共感してもらい、最大の演奏を引き出さなければならないので、自分のやりたいことをただそのまま書けばいい訳ではない。



それには、色んなレベル、色んな楽器をまとめてきた即興アトリエでの18年の経験が、とても役に立った。





シャルリーの考え方で私が好きなところは、何層にも重なる全く違った次元の人間交流から音が産まれてくることだ。


そこでは音楽は「コミュニケーションツール」となるので、「さて何をアイデアに作曲しよう」、「上手く書かねば、、、」などという煩悩を避けて、直接音楽にアクセス出来るのだ。(あくまで私の場合は、だけど)


その音には必然的にこの世界の「陰影」のような美しさが織り込まれていると思う。


そんなニュアンスに富んだ生きた音たちを、作品にパッキングして美術館に展示するとは、なんと素晴らしいアイディアだろう!





人間同士のシェアって、なんて奥深いんだろう、人と人との繋がり、そしてそれこそが生きる意味、創造性を呼び起こすエネルギーなんだよな、と改めて思わせてくれるのがシャルリーのアート。


それは最近流行の「ジャンルを超え混ぜ合わせましょう」、「社会的階級を無くしみんなで仲良くしましょう」みたいな表面的な政治文句から来るのでなく、彼の源泉から湧き出ているから本物だ。彼は芯から他者のことを理解する力を持っているし、本当に優しい、大きな現代版トトロのようだ。


古い考え方の人は「若いから流行に乗ってるだけ」「最近の人は、こんなものが美術作品だと思っているのか」という人たちもいるし、音楽界では、未だ「音符をきちんと全部書かないなんて、作曲じゃない」などと、即興自体を否定する考え方が主流だ。


しかし私は、流れに乗っている人と流れに逆らって来た人が出会い、開けたこの新しい道を行きたいと思う。





そうやって思っているところに、2年前から一緒にグループで演奏しているドラマー、エッジ・タフィアルを9月新学年から即興アトリエの共同常任教授として迎えたことで、__学長に頼み込んで彼をわざわざ雇ってもらったのだ__ 思った通りに、というか、思った以上に、クリエイティブな方向にアトリエの舵を切ってくれている。


「あんたが授業で今日言ってたことって、この本に書いてることだよね?」と最近読んでいるパウル・クレーの「造形思考」のあるページをエッジに見せると、「まさしくそうだね。カンディンスキーの「点と線から面へ」を読んだことは?あれも素晴らしいよ。」


なーんていう回答が返ってくる事は、私の知る限りパリの音楽の世界ではまずないと言っていい。


即興アトリエはここに来て「バウハウス」みたいになって来た!


自分が心の中で思っていることって、ある時現れ始めると、鉱脈を掘り当てたように連動して実現してしまうものなのだ。


名誉なことにシャルリー・オブリー、ミエ・オグラ連名展示となった「思い出のシンフォニー」、ボルドー鉄道駅すぐそばのMECA美術館に、5月末まで展示されています。