いい国作ろう!「怒りのぶろぐ」

オール人力狙撃システム試作機

海堂尊・著『ナイチンゲールの沈黙』

2009年01月13日 15時48分47秒 | 俺のそれ
ウチの子が図書館から借りて読んでしまったようなので、その後に私が読ませたもらった。

前に『チーム・バチスタの栄光』の話は書いたことがあるが、これは私がプレゼントしたものだ。

で、ウチの子が好き勝手に借りてきたのが「海堂本」とは、恐れ入りましたです(笑)。
冬休み期間だから、ということもあるのだろうが、ウチの子は大体1日で読み終えてしまう。私なんかよりも断然早いです(これも以前に書いた通りだ)。

この前も、『ねじまき鳥クロニクル』の2冊組を買ってきたら、1日1冊。
古本屋で『図書館警察』をゲットしてきたら、それもすぐ読了。

いくら暇を持って余しているからといっても、それって
「早すぎじゃね?」
と思いつつ、やっぱ読む速度って才能なんだなあ、と感心しきり。
我が子ながら羨ましい。

字の書いてあるものを手にすると、「隅々まで読むという癖」は本当にあるものです。渡される広告類とか、ペットボトルに書いてある成分や注意書きなど、事細かにあるものをついつい読んでしまう、という習性を持つ人たちは普通に存在しています。本などを持っていなくて、仕方なくそういった「何か」を読まねばならない状況になった時、どんなにつまんないものであろうと、意味がなさそうであろうと、つい読んでしまう、という恐るべき習性なのです。

参考までに、「生徒手帳は読んだか?」と尋ねたことがありますが、そうすると返って来た答えは予想に違わず「うん、当然」だった(中一か中二くらいだったと思う)。
こいつ~~、本当につまんない校則とか一字一句を読んでいやがったのか、と思ったけど(笑)、自分も昔やったのでおんなじだな、とも思ったよ。
生徒手帳には笑えることが書いてある、というのも、昔に自分が感じたとおりだった。どうして親子って、似るんだろ。そんなことをしろ、って教えたわけじゃないのに。自分が昔、そうやったよ、とか一度も明らかにしたことなんかないのに。本当に不思議だ。

これはまあいいか。


『ナイチンゲールの沈黙』は、前作に続いて、また自論展開を盛り込んであり、地味な努力が窺われます。しつこく世の中に広めていこうとする啓蒙活動がやはり大事なのだな、ということは思いました。

ネタバレになってしまいますが、発想自体は昔ながらの典型的な「天城越え」ではないかと思いました。ただ、軸が「解剖経験の有無」という手技・手際の見極めみたいなことで、そこら辺が法医学の見識を持つ人間の存在価値を高めている、ということですね。これって、要するに自画自賛に陥るのをかろうじて防いでいますが、罠も一応あって画像診断(AI)という記録としての意義+解剖に馴れた人間(司法解剖専門の医師とか)の視点だけでは盲点が生まれる(可能性)という点を言いたかったわけですね。

それにしても、MRIの実験というのを設定に使うというのは、確かに予想外だ(笑)。「音が見える」という実際にある現象を用いたり、「音楽」にまつわるプロットを織り交ぜているのも、目新しいかも。一つ一つのエピソードをどのように組み立てて、最後に纏め上げてゆくか、というのは、やはり特殊な才能が必要なのだ。出来事とか事実を羅列しても、物語の構成にはならないからね。

そういう点では、さすがだと思った。


でも、次、次、という風に読み継いでいく時、「またですか」というちょっとウンザリ感がでたりするんじゃないだろうか、とか、心配になってきたかも。3作、4作と読んだ時に、どう感じるか、というのはあるかな。
あと、田口の存在感がやや薄れたというか、大味になってしまったかも。もうちょっと子どもに対するアプローチというのが、田口にとってどうなのか、というのが書かれても良かったんじゃないかな、と思ったりもする。田口の言葉(=読者への説明)としては、最後まで聞かれなかったように思う。




金融再生~J・スティグリッツ

2009年01月13日 12時13分52秒 | 経済関連
10日付読売朝刊の1面のシリーズで、パムク氏の次の回がスティグリッツ氏でした。書こう、書こうと思っていたのですが、うっかり日にちが過ぎてしまいました。

以下に、論説の一部を引用してみます。


=====

 世界が直面している経済危機は、三つの意味で「米国発」だ。まずウォール街で作られた有毒な住宅ローン担保証券を世界中に輸出し、混乱を引き起こした。2番目に、官民が一体となって「規制緩和は正しい」という理念を世界中に広め、カネ余りの温床を作った。3番目に、巨額の貿易赤字が世界的な金融不均衡の元となった。三つの問題を同時に解決するのは難しく、世界経済の混乱が収まるには時間がかかるだろう。
 私たちは、1997年のアジア通貨危機で得た教訓を生かすことが出来なかった。発展途上国の実情を顧みず、「規制緩和」や「自由化」だけを良しとする米国流の理念を押し付けたことが失敗につながった。
 危機の震源地である米国の首都ワシントンで、米国が強い発言権を持つ国際通貨基金(IMF)と米財務省が相談して金融危機に対処するやり方は終わりにしなければならない。

(中略)

 国際的な通貨体制にも抜本的な改革が求められる。ドルはいまは、各国が外貨準備として保有する唯一の通貨ではなくなってしまった。複数国の通貨を束ね、安定した国際通貨の創設が必要だ。IMFのSDR(特別引き出し権)のような各国通貨の「バスケット方式」が良い。特定の国の経済情勢によって価値が左右されない利点がある。
 市場原理主義に基づく経済は失敗した。市場経済の中核を担った米大手証券や銀行は「自由」という言葉をはき違え、利益追求の経営の中でリスク管理に失敗し、倒産した。金融システムを守るため金融機関の資本増強に税金が投入され、最終的に私たち全員でツケを払うことになった。
 それにもかかわらず、巨額の報酬を受け取り会社を去った経営幹部も多い。企業が追求する利益と公共の利益が食い違い、自由放任の市場経済を重んじる考え方が根本的に間違っていると批判されても仕方がない。

(中略)

 ウォール街が作り出す金融商品を透明性の高いものとするための規制や、金融システムが安定して運営されるための監視も必要だ。こうした規制は世界レベルで課せられるべきだ。
 政治・経済思想の大転換点を迎えている。共産主義が崩壊したのと同じくらいの衝撃だ。これからは、保守派でさえも、政府による経済への介入を容認するだろう。

(以下略)
=====


主な論点をかいつまんで書くと次のようなことである。

①米国発の経済危機:三つの意味
・有毒な住宅ローン担保証券
・「規制緩和が正しいという理念」の拡散と押し付け
・巨額貿易赤字による金融不均衡

②IMFの改革が必要
・金融危機対処のやり方を変える
・米国流理念の押し付けは止めるべき

③国際通貨の創設が必要
・ドル以外の基軸通貨が必要
・各国通貨のバスケット方式ではどうか

④監視や規制の強化
・リスク管理
・金融商品の透明性
・金融システム安定化の為の監視


とても判りやすい論説である。ノーベル経済学賞はダテじゃない。
それから、基軸通貨の話だけれども、これは以前にちょっと触れたのと大体同じだ。

けれど、標準通貨単位を合成するということになると、政治的にクリアすべきハードルが非常に高そうで、これはこれで大変なわけでして、そう簡単には導入されないような気もします。でも、人類がある程度賢いのであれば、導入した方が無難というか安定するように思えますね。


日本人の中には未だに反省することなく、自己防衛の為だけに、いかにも学問の装いをしながら、自己弁護を強弁しているような低次元の人たちを見かけるのですが、米国の経済学者たちはそういうことがない。極めて「科学者」的な立場で考えるし、取り組むという基本姿勢がある。ダメだったかも、悪かったかも、ということで素直に反省できるんです。

日本人は、もう少し恥を知るべきだ。
最も恥じるべきは、学者や政策担当者たちだ。或いは、マスメディアの人たちもそうかもしれない。私たちも、もっと注意深く、選別する目や能力を持たなければならない。

私も、自らの不明を恥じる。